ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

アプタマー創薬と構造生物学AptamereIF4A図4 eIF4Aとアプタマーの相互作用モデル.(Interactionmodel between eIF4A and the aptamer.)eIF4A(灰色)はダンベル型の構造をとっており,アプタマー(カラー)と広い範囲で相互作用している.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.異なる.アプタマーの高い特異性は,広い範囲の認識によるものであると考えられる.2.2免疫グロブリンIgGアプタマーの構造解析㈱リボミックの宮川博士らにより,ヒト抗体IgGの定常部位であるFcドメイン(hFc1)に結合するRNAアプタマー(Kd=約10 nM)が作製された.8),9)現在,抗体医薬品の生産における精製過程では,hFc1に結合するProtein Aを固定化した樹脂が使用されているが,このアプタマーはProtein Aに対して次のような優位性をもち,Protein Aに代わるものとして期待されている.優位性の1つ目は高い特異性である.Protein Aは,ほかの生物種の抗体に結合することから広い交差性をもつが,アプタマーはヒトのFcに対してのみ結合し,非常に高い特異性を有している.したがって,他生物種の抗体の混入を防ぐことができる.2つ目は,マイルドな条件で抗体を精製できる点である.アプタマーを取得する際に,Mg 2+とCa 2+を含む条件でhFc1に結合させた後,EDTAでアプタマーを溶出することにより取得している.そのため,アプタマー樹脂により抗体医薬品を精製する場合,EDTAを加えれば溶出することができる.一方,Protein A樹脂から抗体医薬品を溶出する際には,酸性にする必要があるため,抗体が変性してしまうことがある.アプタマー樹脂の場合,EDTAを加えて中性で溶出することができるため,抗体が変性して失活してしまうことはない.はじめに,名古屋市立大の加藤教授らとともにNMRによる相互作用解析を行い,アプタマーがhFc1の2つのドメインのヒンジ部分に結合することを明らかにした.8)この解析結果は,アプタマーはヒンジ部分に結合するProtein Aと競合するという生化学的実験データと一致した.日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)図5 hFc1とアプタマーの複合体の結晶構造.(Crystalstructure of the complex of hFc1 and the aptamer.)二量体化したhFc1(灰色)に2つのアプタマー(カラー)が結合している(片方のアプタマーは,hFc1の背面から結合している).Ca 2+は緑の球で示されている.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.次に,hFc1とアプタマーの詳細な相互作用を原子座標レベルで解明するために,大阪大学の杉山博士ら,株式会社創晶とともに複合体のX線結晶構造解析を試み,試料溶液を撹拌することで結晶化に成功した. 10)得られた結晶を用いて,大型放射光施設SPring-8で回折データを測定し,分解能2.1 Aで結晶構造を決定することに成功した(図5). 11)X線結晶構造解析の結果,NMRによって予測された結合部位を確認することができた.結晶構造からは,二価のカチオンであるCa 2+がアプタマーのリン酸骨格と相互作用して,アプタマーの特徴的な構造の安定化に寄与していることが明らかとなった(図5,6)(一般に,カチオンはアプタマーのリン酸骨格と相互作用し,多くの二価のカチオンがアプタマーの立体構造に大きく影響することが明らかとなっている).したがって,Ca 2+がEDTAによりキレートされるとアプタマーの結合能が失われる原因が明らかとなった.さらに,U6:A18:U9のbase triple(18番目のAと9番目のUによるワトソンクリック型塩基対(A18:U9)のA18にU6が水素結合した形)を形成していることが明らかとなった.その結果,G7の塩基がフリップアウトして,そのG7にC8,U9と連続的に塩基がスタッキングする特徴的な立体構造を形成することが明らかとなった(図6).U6のリボースの2’位のフルオロ基F(2’-F)は,フリップアウトしたG7の塩基の8位の水素(H8)と相互作用していることから,アプタマーの立体構造形成に重要な役割を果たしていることが示唆された(図6).実際,U6の2’-FをOHやHに置換するとhFc1との結合能を失うこと131