ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

日本結晶学会誌60，129-134（2018）ミニ特集核酸構造研究の新展開アプタマー創薬と構造生物学千葉工業大学先進工学部生命科学科坂本泰一Taiichi SAKAMOTO: Development of Aptamer Therapeutics and Structural BiologyAptamers are nucleic acids that bind to a target molecule with high affinity and specificity, whichare selected from systematic evolution of ligands by exponential enrichment（SELEX）. Because oftheir high affinity and specificity, aptamers are strong candidates of next generation molecular targetedagents. However, for the development of aptamer therapeutics, chemical modification of aptamers isrequired to improve their nuclease resistance. For the efficient modification, structural informationcould be important. In this review, I describe structural biology of aptamers.1．はじめに1.1アプタマーとは近年，バイオ医薬品の研究開発は急速に進んでおり，50品目を超える抗体医薬品が承認されている．バイオ医薬品の1つである核酸医薬品も5品目が承認されており，次世代のバイオ医薬品として注目されている（図1）．5品目の核酸医薬品のうち4品目はアンチセンス核酸と呼ばれ，RNAに対して塩基配列の相補性により結合して作用する．残りの1品目が，タンパク質に結合して作用するアプタマーである．このアプタマーは，Macugenと呼ばれており，加齢黄斑変性症（AMD）の治療薬として2004年にアメリカ食品医薬品局（FDA）により認可され，2008年には厚生労働省でも認可されている.1）AMDは，網膜の中心部にある黄斑が加齢などの原因で変性し，その結果，物がゆがんで見えたり，視野の中心が欠けて見えるなどの症状を起こす疾患であり，高齢者の失明や視力低下の主な原因となっている．Macugenは，AMDにおける異常な血管新生の原因となっている血管内皮細胞増殖因子（VEGF）を標的として結合し，その働きを抑えることによりAMDを治療する．アプタマー医薬品は，病気の原因となっているタンパク質の立体構造を認識して結合する点で抗体医薬品と似ており，その立体構造が重要である．筆者は，アプタマー医薬品の開発のための基盤技術を確立することを目標に，アプタマーの立体構造，相互作用機序を解析し，それらの情報をもとにアプタマーの設計を試みている．本稿では，アプタマーの特徴，立体構造について概説する．アプタマーは，適合するという意味をもつラテン語（aptus）とオリゴマーの接尾語（mer）を合わせた造語であり，EllingtonとSzostakのグループと，TuerkとGoldのグループによって1990年に報告されたSELEX（SystematicEvolution of Ligands by EXponential enrichment）法と呼ばれる方法によって作製することができる.2）,3）アプタマーにはRNAアプタマーとDNAアプタマーがあり，作製方法が少し異なるが，ここではRNAアプタマーの作製方法について簡単に説明する（図2）．はじめに，逆転写酵素およびPCRのプライマーとT7RNAポリメラーゼのプロモーターに挟まれた40塩基程度のランダム配列をもつDNAライブラリを合成する．このようなDNAライブラリを鋳型として，転写反応を行うことで，さまざまな配列をもつRNAプールを合成する．このRNAプールは，およそ10 15の分子種を含んでおり，DNA libraryRT-PCRProteintranscriptionRandom sequenceDNARNA Aptamer(Macugen)Antisense(Vitravene, Kynamro,Exondys 51, Spinraza)Bound RNARNA pool図1核酸医薬品とその標的分子.（Nucleic acid therapeuticsand their targets.）Selection Unbound RNA図2 SELEX法の概略図.（Schematic representation of SELEX.）日本結晶学会誌第60巻第2･3号（2018）129