ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

DNA構造バイオナノテクノロジーできたため(詳細は文献22)のSupporting Informationを参照),溶液中でもDNA-銀ハイブリッドナノワイヤー,またはその基本ユニットであるDNA-銀ハイブリッド二重らせんが形成されることがわかった.現在は「のり図10紫外スペクトルで測定したDNA熱変性曲線.(DNAmelting profiles measured by UV spectroscopy.)しろ」となる5’末端の塩基を長くするなどの工夫によって,溶液中で簡単に長鎖のナノワイヤーを形成できるDNA配列を探索している.3.7ナノワイヤーの分子電線としての応用今回合成に成功したDNA-銀ハイブリッドナノワイヤーは,実際に分子電線として用いることができるだろうか?実は直鎖状に縦列した重金属イオンの導電性に関する研究は古くから行われており,例えばプラチナイオンが縦列した錯体は高い導電性を示すことが明らかになっている.23)したがって,DNA-銀ハイブリッドナノワイヤーも導電性をもつ可能性は十分にある.現在,このナノワイヤーの導電性を検証する実験を進めているところである.もしこのナノワイヤーの導電性が確認できれば,DNAオリガミなどと組み合わせることでナノサイズのICチップを作ることも不可能ではない.生体適合性が高く毒性の低いDNAでできたICチップを医薬品に搭載すれば,治療が必要な細胞に到達したときに外部からの電気信号ではたらく薬や,ガンや糖尿病の発症をメールで知らせてくれる診断薬などができるかもしれない.そして,環境負荷の低いDNAでできたこの薬は,いずれ代謝されて自然へと還っていくのである.図11円偏光二色性スペクトルで観察した銀の添加によるDNAの立体構造変化.(StructuretransitionofDNAinduced by Ag(I)monitored by CD spectroscopy.)4.おわりに今回紹介したDNA-銀ハイブリッドナノワイヤーは,重金属仲介塩基対の構造研究の過程で得られた偶然の産物である.しかし,ひとたびこのナノワイヤーの立体構造が明らかになってしまえば,Structure-Based Designのアプローチで塩基配列や長さの異なるナノワイヤーを合成することが可能になる.実際にわれわれの研究室ではさまざまな塩基配列のナノワイヤーの設計・合成に成功している.この約10年の間に,構造生物学は創薬科学などと融合して「構造生命科学」へと発展してきた.同じように構造生物学はナノテクノロジーと融合することで「構造図12塩基ミスマッチを含むDNAの立体構造.(a)DNA非らせん構造,(b)塩基積層型二重らせんとそれが会合してできたDNA八重らせん.(Structures of DNA sequences containing base mismatches.(a)Non-helical DNA,(b)Base-intercalated duplex and its assembled DNA octaplex.)日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)127