ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

ページ
64/98

このページは 日本結晶学会誌Vol60No2-3 の電子ブックに掲載されている64ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

近藤次郎図8銀仲介塩基対を横から見た図.(Side-view of silvermediatedbase pairs.)隣接する塩基対間でカルボニル酸素とアミノ基とが水素結合を形成して,DNA-銀ハイブリッドナノワイヤーを安定化していることがわかった(図8).例えば,G2-Ag(I)-C 12とC 4-Ag(I)-C 11という2つの隣接した銀仲介塩基対間では,G2のカルボニル酸素とC11のアミノ基が水素結合を形成している.このような塩基対間水素結合がナノワイヤーの全体にわたって形成されていることから,この相互作用はナノワイヤーを安定化するのにきわめて重要な要素であると考えられる.3.5ナノワイヤーの骨格となる親銀相互作用DNA-銀ハイブリッドナノワイヤーのらせん軸は,銀仲介塩基対の中央にある銀イオン部分を貫いている.つまり,銀はナノワイヤーのらせん軸上に一次元に途切れることなく半無限長に伸びていることになる.ナノワイヤー中の隣接する銀同士の距離は3.2~3.4 Aと非常に短い(図8).この距離は銀のファンデルワールス半径の2倍(3.44 A)よりも短く,金属半径の2倍(2.8 A)よりも少し大きい.このことから,銀イオンの間には親銀相互作用と呼ばれる特殊な相互作用が働いていると考えられる.先述したように,今回ナノワイヤーを形成することがわかったDNAオリゴマーの配列は,自己会合することによってワトソン・クリック型のA-T,G-C塩基対と銀仲介塩基対C-Ag(I)-C塩基対でできた二重らせんも形成できるはずである.それにもかかわらずこのDNAオリゴマーは銀仲介塩基対のみでできたナノワイヤーを優先的に形成したため,親銀相互作用が著しく強い相互作用である可能性がある.以上をまとめると,銀仲介塩基対,塩基対間水素結合,親銀相互作用の3種類の相互作用が,このナノワイヤーの形成とその高い安定性に寄与していると考えられる.3.6溶液中でのナノワイヤー形成今回,結晶中で合成に成功したDNA-銀ハイブリッ図9 20%ポリアクリルアミドゲル電気泳動.レーン1:DNAと硝酸銀の混合溶液,レーン2:ナノワイヤーの結晶をすりつぶしたもの.(20%polyacrylamide gelelectrophoresis. Lane 1:Solution containing DNA andAgNO 3, Lane 2:Mashed crystals of the nanowire.)ドナノワイヤーは,果たして溶液中でも形成できるのだろうか?これを確認するために,まず2 mM硝酸銀を含む20%未変性ポリアクリルアミドゲルを作成し,ナノワイヤーを形成するDNAオリゴマーd(GGACT Br CGACTCC)と硝酸銀を混合した溶液を電気泳動した.その結果,一本鎖および二本鎖DNAに由来するバンド以外にも泳動距離の短いバンドがラダー状に観察できた(図9).これらのバンドは中程度の長さのナノワイヤーであると考えられる.つまり,中鎖のナノワイヤーであれば溶液中でも形成可能であることがわかった.次に,上述のDNA-銀ハイブリッドナノワイヤーの結晶数個をプラスチック製カバーガラスに挟んでよくすりつぶし,その溶液を同じゲルに電気泳動した.その結果,結晶をすりつぶしたものはゲルのスロットからまったく移動しなかったため,ナノワイヤー構造が維持されていると考えられる.このことから,結晶中でナノワイヤーを形成させ,これをすりつぶすことによってナノワイヤーを溶液中に取り出すという方法が,現時点では最も簡便なナノワイヤーの合成手法であることがわかった.次に,紫外スペクトルを用いたDNA熱変性実験によって,溶液中でのナノワイヤー形成を確認した.その結果,DNA熱変性曲線は銀イオンの濃度比を上げていくほど高温側にシフトしていくことが確認できた(図10).さらに円偏光二色性スペクトルを用いてDNAの立体構造と銀イオンの濃度比との関係を調べたところ,このナノワイヤー中でのDNAと銀イオンの濃度比である1:5になるまで立体構造変化が起こり,それ以上に銀イオン濃度の比率を上げても構造変化が起きなかった(図11).同様の挙動はNMRのシグナル変化でも観察126日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)