ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

DNA構造バイオナノテクノロジー図6ナノワイヤーの形成過程.(Formation process of thesilver-DNAhybridnanowire.)図7銀仲介塩基対の構造.(Structures of silver-mediatedbase pairs.)た.DNAオリゴマーの5’末端にあるGは,2本のオリゴマーで形成される二重らせん構造ユニットから突出していたが,これが「のりしろ」として働き,G同士が2つの二重らせん構造ユニット間でG-Ag(I)-G塩基対を形成した.その結果,このユニットが一次元に会合・伸長していき,ナノワイヤーが形成された(図6).今回得られた単結晶は約0.1 mm角だったことから,ナノワイヤーの長さも約0.1 mmであると言える.ナノワイヤーの直径はDNA二重らせんの直径の2 nmであることから,今回得られたナノワイヤーのアスペクト比は50,000にも及ぶことがわかった.面白いことにこのナノワイヤー結晶は一般的なDNAの結晶に比べて強度が著しく高く,物日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)理的加圧だけでなく真空状態やマイクロ波照射に対しても耐性があることがわかった.したがって,このナノワイヤーは物理的強度が非常に高いと言える.3.3銀仲介塩基対の詳細な立体構造二重らせん構造ユニットを形成している2本のDNAオリゴマー間では,2番目のGと12番目のCは,G-Ag(I)-C塩基対を形成していた.1つの銀イオンがワトソン・クリック型のG-C塩基対の間に割り込んで結合して,GのN1原子とCのN3原子に結合していた.N原子と銀イオンの距離は2.2~2.3 Aだったことから,GのN1に結合しているはずの水素原子は脱プロトン化されていることがわかった.4番目のCと11番目のCは,C-Ag(I)-C塩基対を形成していた.この塩基対は,先述したRNA中のC-Ag(I)-C塩基対とまったく同じ構造をしており,銀イオンはCのN3原子に直線型二配位構造で結合していた.これとまったく同じ塩基対が,6番目のBr Cと9番目のCとの間で形成されていた.つまり,Cの5位に結合した臭素原子はC-Ag(I)-C塩基対の形成には影響を及ぼさないことがわかった.5番目のTと10番目のTは,新規のT-Ag(I)-T塩基対を形成していた.銀イオンは2.2 Aという近距離でTのN3原子に結合していることから,TのN3に結合しているはずの水素原子は脱プロトン化されていることがわかった.なお,このT-Ag(I)-Tの構造は,先述のT-Hg(II)-T塩基対の構造とよく似ていた.二重らせん構造ユニットの中央部分では,新規のG-Ag(I)-G塩基対が7番目のG同士で形成されていた.G塩基は両方ともsynコンフォメーションをとっており,銀イオンはGのN7原子に近距離で結合していた.これとまったく同じ塩基対が,二重らせん構造ユニットの5’末端に突出したG同士の分子間相互作用で見つかった.つまり1番目のGが「のりしろ」として働き,二重らせん構造ユニットを一次元に会合・伸長させ,ナノワイヤーの形成が誘導・促進されることがわかった.3.4ナノワイヤーの安定性に重要な塩基対間水素結合ナノワイヤー中にあるすべての銀仲介塩基対は,ワトソン・クリック型のA-TやG-C塩基対に比べて著しく大きいプロペラ角をもっている.これは,A-TやG-C塩基対がそれぞれ2本と3本の水素結合で形成されているのに対して,銀仲介塩基対はN-Ag(I)-Nという1本の直線的な配位結合または共有結合のみで形成されているために,この結合周りで回転がある程度許容されるからだと考えられる.そしてこの大きなプロペラ角は,ナノワイヤーを形成している2つのDNA鎖の間をつなぐもう1種類の相互作用の形成に寄与している.DNA二重らせんのメジャーグルーヴ側には,GとTの場合はカルボニル酸素が,AとCの場合はアミノ基が存在するが,2つの125