ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

粉末回折法を用いた新しい定量分析法の開発とパターソン関数当する. 10)さらに式(6)はW k=(I 0QC/μ)-1 S k/a-1kの形,つまり観測された全強度を単位質量当たりの強度で除した形になっており,その量が該当する成分の重量に比例することは明らかである.リートベルト定量において重要な役割をもつスケール因子Sc kは該当する成分の重量に比例するが,そのスケール因子を以下の形に書き換えることができる. 10)?N1 1 ? 1 k2??Wk∝Sck = Sk?mjkFjkM k Z ?k ? U∑????k j=1 ???日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)?1(9)式(9)のカギ括弧で括られた量もパラメータa-1kとまったく同じ物理的な意味をもっている.最強線の回折強度を用いたRIR法も,基本的には同じ考え方,すなわち観測強度を単位質量当たりの散乱能で除した形になっているとして説明できる.さらに試料中の一部結晶相成分に関して結晶構造がわからない場合でも定量分析できるという,PONKCS法においても,また次節で説明するFPF法においても基本的に同じ考え方で解釈することができる. 10)6.D D法の全パターンフィッティングへの組み込み水酸化物のように結晶性が低いために回折線が広がり,隣の回折線と重なり合ってパターン分解法では個々の回折線に分解できない,あるいは粘土鉱物のように積層不整を起こしていて計算パターンも容易に得られないといった試料が多数存在する.これら試料の定量分析に関して,該当する成分の単一相観測パターンからバックグラウンドを差し引き,それにスケール因子を乗じてそのままフィッティングし,精密化されたスケール因子を用いて定量分析を行う方法(Full-Pattern-Fitting=FPF法)17)が知られている.しかし,FPF法を適用するためには,PONKCS法と同様に標準試料に対する参照強度比が必要となる.IC formulaを用いたDD法を全パターンフィッティングに適用すれば,FPF法でも参照強度比を求める必要がなくなり,DD法と同様に化学組成のみから定量値を導くことができる.さらに測定対象の試料にこの種の成分が混在している場合でもほかの方法と併せて統合的に扱うことができることを以下に示す.全パターンフィッティングにおける計算プロファイル強度,y(2θ)の計算式を3種の異なるモデルの線形結合として以下の形に表す. 10)y( 2θ) = y( 2θ) + IjkP( 2θ) + Sc I’Pjk k jk ( 2θ)BG∑∑jkjj(10)+Sc k y (2θ)’k式(10)の第1項はバックグラウンド強度を表すバックグラウンド関数である.第2,3および4項をここでそれぞれtype A,type B,type C関数と呼び,各関数はそれぞれ異なるモデルに基づいて回折パターンを計算する.P(2θ)jkはプロファイルの形状を表す規格化されたプロファイル関数である.以下にこれら関数の説明を与える.Type A関数:最小二乗法を用いた全パターン分解法18(Pawley法))のフィッティング関数と同じであり,最小二乗フィッティングにおいて{I jk}は個々独立に精密化される.全パターン分解を実行しながら,最小二乗サイクルのたびに精密化された積分強度パラメータI jkを用い,式(7)で重量分率を求めることができる.Type B関数:{I’jk}は事前に用意された積分強度の集合であり,該当する成分が含まれる試料をパターン分解して得ることもできるし,結晶構造モデルに基づいて計算で求めることもできる.最小二乗フィッティングにおいて{I’jk}の値は固定され,スケール因子が精密化される.19全パターンフィッティング定量法)およびリートベルト定量が該当する.Type C関数:{y(2θ)’k}は事前に用意された回折パターンであり,該当する単一相試料のプロファイル強度測定あるいは計算で求めることができる.FPF法と同様に,スケール因子の精密化によってこの回折パターンそのものを直接フィッティングする.2θ方向に沿ったパターン全体のズレを最小二乗フィッティングで補正できる.式(10)において,type A,B,Cの3種の関数のうち,例えばtype A関数が複数個含まれていてもよく,あるいはtype Bとtype C関数があってtype A関数が含まれていなくてもよい.試料の与える回折パターンと手元にあるデータによって,その条件下で最適な関数の組み合わせを選択できる.式(4)で定義されるSkはそれぞれtype A,type B,typeC関数に対してSk=∑IjkGjk,Sk=Sck∑I’jkGjkおよびYk=Sc k∫y(2θ)’kG(2θ)d(2θ)として求めることができる.ここでG jkによる補正を施した積分強度の和S kと,G jkを連続関数化したG(2θ)によって補正を施したプロファイル強度の積分値Y kとが同等であること(Sk=Yk)は容易に証明される. 10)従来は全パターン分解法を用いた定量, 19)リートベルト定量,両者を結び付けたPONKCS法,FPF法を個々独立に運用して定量分析が行われてきた.DD法の全パターンフィッティングへの適用により,これらの定量法で用いられてきたフィッティング関数を同時にフィッティングし,定量分析を実行できる.この場合でも必要な情報は化学組成のみで,リートベルト定量で必要な結晶構造パラメータも,PONKCS法やFPF法で必要な事前の標準試料との強度比の測定といった実験作業を必要としない.7.低結晶質物質が混在した試料の定量分析式(10)を適用した全パターンフィッティングによる定量分析の実施例を以下に示す.扱う系はα-quartz(SiO 2),albite(NaSi 3AlO 8)およびkaolinite(Al 2Si 2O 5(OH)4)の117