ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

虎谷秀穂表3一連のhydrated magnesium silicates(HMS)およびhydro carbons(HC)に対するakおよび関連パラメータの値. 9)(Comparison of a k and related parameters for series of hydrated magnesium silicates(HMS)and hydro carbons(HC).)HMSHCChemical formulaM kΣn 2 ikakMg 3(SiO 4)(OH)2199.03410460.19028Mg 5(SiO 4)2(OH)2339.74217860.19023Mg 7(SiO 4)3(OH)2480.45025260.19020Mg 9(SiO 4)4(OH)2621.15732660.19019Averageak0.19022(4)C 10H 8128.1753680.3483C 14H 10178.2355140.3468C 18H 12228.2956600.3459C 22H 14278.3568060.3454Averageak0.3466(11)表4代表的造岩鉱物の理想の化学組成,およびa kに関連したパラメータ.9)(Some representative rock-forming minerals,their ideal chemical formulas and parameters related to a k.)Mineral/group Ideal chemical formula a avσ(a av)Δa minkΔa maxkOlivine(Mg,Fe)2SiO 40.15540.0257-0.04200.034121Orthopyroxene(Mg,Fe)SiO 30.15990.0143-0.02510.027819Anthophyllite(Mg,Fe)7Si 8O 22(OH)20.16960.0090-0.01450.010511MuscoviteKAl 2Si 3AlO 10(OH)20.17090.0091-0.03180.007415Biotite(igneous)K(Fe,Mg)3Si 3AlO 10(OH)20.14610.0055-0.01000.008316OrthoclaseKSi 3AlO 80.17560.0036-0.00700.006416AlbiteNaSi 3AlO 80.18680.0013-0.00200.001714Nきる大きさである.化学組成が同じで構造や物性が異なる多形(polymorphism)や多型(polytype)の定量分析の場合,akの値が同じになるため,式(7)はw k=S k/∑Sk’となり,観測強度のみから定量できることになる.天然に産出する鉱物は,さまざまな金属イオンの固溶や微量元素の含有など,理想の化学式から外れた複雑な化学組成をもっている.世界中の地域で採取された造岩鉱物に対して化学組成の分析データが報告されており, 14),15)それらのデータを用いてa kの値を計算することができる.表4はいくつかの代表的造岩鉱物に対してそれぞれ求めたakの平均値(a av),その標準偏差(σ(a av)),最小偏差(Δa mink),最大偏差(Δa maxk),および標本数(N)を,理想の化学式とともに示したものである.化学組成の複雑さにもかかわらずに,それぞれの種に属する鉱物のa k値は狭い範囲に分布していることがわかる.セラミックスの原料として使用される風化花崗岩を構成する主要造岩鉱物はα-quartz,orthoclase,albiteおよびbiotiteで,それら成分の重量比は代表的な例として48:37:11:4と報告されている. 16)DD法を用いた風化花崗岩の定量分析をシミュレーションした結果によれば,9)a kの値がa av±σ(a av)の範囲で変動した場合の,それぞれの鉱物に対する定量値に与える誤差(|Δw| av)はそれぞれ0.33,0.51,0.10,0.16%(全平均0.27%)と推定されている.この誤差が無視できる大きさであるとするならば,現場で採取した鉱物の化学組成を個々に分析してakの値を求めなくても,表4におけるa avの値を使用できる.産地別に集積された化学分析データを用いれば,これよりも低い誤差で定量分析を実施できるであろう.DD法において必要なのは各結晶相の化学組成のみで,種々金属イオンがどの結晶学的サイトを占めているのかといったことを考慮する必要がない.定量分析においては一般に対象物質の化学組成はかなり明確にわかっている場合が多い.一方,天然資源やセメントの出発原料のように化学組成が複雑な場合,生成物の化学組成は理想の化学組成からずれることになる.上記の例のように,これらの対象物質でもakの値はあまり変動せず,定量分析の精度に大きく影響しないと予想される.この特徴は複雑な化学組成をもつ鉱産原料,セメントなどの工業製品,スラグなどの副産物などの品質管理における定量分析にも威力を発揮することが期待される.5.パラメータa kの物理的な意味とほかの分析法との関係式(5)によって定義されるパラメータakを以下のように逆数の形で表すと,akがもつその物理的な意味がわかりやすい.?a1 1k=∑n2ikMkN Aki=1(8)すなわち,パラメータa-1kはその結晶相の化学式量当たりの散乱能を意味し,かつ,単位質量当たりの強度(Standard Reference Intensity per unit weight=SRI)に相116日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)