ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

ページ
53/98

このページは 日本結晶学会誌Vol60No2-3 の電子ブックに掲載されている53ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

粉末回折法を用いた新しい定量分析法の開発とパターソン関数表23成分系および4成分系試料に対するDD法,リートベルト(Rietveld)法およびRIR法の適用によって得られた定量値のRMSEによる比較. 7)(Comparison of RMSEs obtained by the three methods for three- and four-componentsamples.)特徴結晶相成分混合重量比(%)DDRietveldRIR繰返し測定TiO 2(A)+TiO 2(R)+Si54.00:24.47:21.531.211.611.82含重原子BaSO 4+α-Al 2O 3+α-SiO 250.27:38.13:11.601.419.3210.47配向性有CaCO 3+CaF 2+TiO 2(A)43.40:33.37:23.232.851.4712.32含微量成分Fe 3O 4+Fe 2O 3+TiO 2(A)62.87:35.00:2.130.610.841.334成分系CaF 2+TiO 2(A)+α-Al 2O 3+CaSO4.2H 2O51.83:25.21:12.99:9.971.212.4823.40図12θHの増加に伴うRMSE(縦軸)の変化. 7)(Variationsof RMSE with increasing 2θH.)に依存する.S kにおける誤差の主な要因として,和の打ち切り誤差および各回折線強度の統計および系統誤差が挙げられる.TiO 2(anatase),TiO 2(rutile)およびSiを含む3成分系試料(表2)を用い,その詰め直しと測定の5回繰り返しによって測定の再現性を確認した結果を図1に示す.横軸(2θH)は式(4)においてどの2θ範囲までの積分強度を足し合わせたかを示し,縦軸はその2θH範囲におけるS kを用いて求めたw kに対するRMSEを示す.図中の数値は5回測定におけるRMSEの平均値で,括弧内の数値は平均値に対する標準偏差を表している.破線および12),13)*点線はリートベルト法およびRIR法2でそれぞれ得られたRMSEの最小値および最大値を示し,数値の表現は上記と同じである.2θHを高角側に拡げるに従ってRMSEが大幅に減少し,80°<2θH ? 110°でリートベルト法による定量値よりも低い値を示している.無限フーリエ級数であるパターソン関数に対して式(3)による近似が成り立つためには,十分な本数の回折線強度データが必要なことを意味する.同時に相対比を求める式(7)*2 RIR法とは,Reference Intensity Ratio法の略記である.この方法では,被験対象となる物質と標準参照物質(α-Al 2O 3)を1:1の重量比で混合した二成分系を用意し,それぞれの最高回折線強度の比(RIR)をとって事前にデータベース化しておく.定量分析においては,被験混合物試料における各成分の最高回折線強度を測定し,データベースの強度比に照らし合わせてそれぞれの成分の相対重量比を求めることができる. 10)日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)の性格上,各結晶相の弱い反射が多数重なった高角域のデータは影響が少ないことを示している.図1の結果は,無機物の場合,打切り誤差が収まる80°? 2θH ? 110°程度の範囲内の測定データが必要であることを示している.なお,個々の積分強度の測定精度が重量分率w kに与える影響を求める式は,文献7)および8)に与えられている.上記試料を含む3成分系および4成分系試料に対してDD法,リートベルト法およびRIR法を適用して得られた定量値をRMSEの比較によって表2に示す.DD法は5件のうち,上記繰り返し測定,重原子が含まれる場合,微量元素が含まれる場合,および4成分系の4件で最も低いRMSEを与えている.配向性のある試料の場合でも,広角で測定される回折線をすべて使用するために配向による強度の増減が相殺され,回折線1本の強度を用いるRIR法よりも良い結果が得られている.なお,この試料に対するリートベルト定量では配向補正を行っている.表2の2行目における試料のa k値はそれぞれ0.06398(BaSO 4),0.19238(α-Al 2O 3)および0.18545(α-SiO 2)であるが,DD法はakが大きく異なる場合でも正確に定量することができる.4.化学組成が不確実な試料の定量分析式(5)で定義されるパラメータakの値はもっぱら化学組成によって決まる.しかし,同時にこのパラメータa kは,化学組成が多少不確実でも定量値に大きな誤差を与えない特徴をもっている.9)例えば,hydrated magnesiumsilicates(HMS)およびhydrocarbon(HC)はそれぞれ同種の原子で構成され,それら原子の構成比が異なる.これら一連の化合物のMk,∑n 2 ikおよびakの値を表3に示す.化学式における構成原子の数の増大に伴ってMkおよび∑n 2 ikの値は増大するが,その増加は分母・分子で相殺され,akの値はほとんど変化しない.akの平均値に対する標準偏差はHMSおよびHCに対してそれぞれ0.02~0.32%である.例えば表3に示された4種のHMSをそれぞれ同じグラム数(25 wt.%)秤量して混合試料を作製し,DD法[式(7)]で定量したとする.個々のakの代わりにa avを用いて定量したとしても,a avによる代用が与える誤差はσ(wk)/w k=0.00018にすぎず,十分に無視で115