ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

虎谷秀穂表1記号の説明.(List of symbols used in equations(1)and(2).)記号意味記号意味I 0入射X線強度m jk反射の多重度Q光の速度,波長,幾何学的寸法などを含むF jk構造因子V k被照射体積θjkBragg角W kV kに相当する被照射成分の重量2θL解析に用いた2θ範囲の下限μ線吸収係数2θH上記の上限Z k単位胞中の化学式単位の数N k[2θL,2θH]における回折線の本数M k化学式量N A k化学式単位に含まれる原子の個数U k単位胞体積n ik上記の各原子に属する電子の個数1つの近似を用いる以外,理論的に厳密に導くことができる.実験室で広く使用されている粉末回折計は,Bragg-Brentano geometry,別名集中法光学系に基づいて設計されている.この光学系を用いた場合,K個の結晶相成分を含む多成分系試料中のk番目の成分のj番目の回折線の積分強度,I jkは次式で与えられる. 11)I jk= I 0QWkM UμZ k k k?G 1 2jkm jkF jk(1)ここでG-1jkはG-1jk=(1+cos 2 2θjk)/2sinθjksin2θjkでLorentzpolarizationfactorおよび強度測定の幾何学に起因した因子を表す. 11)後述する記号を含め,ほかの記号の説明を表1に与える.通常,回折強度は被照射体積V kに比例する形で表されるが,式(1)においてVkはVkに相当する重量W kで置き換えられている.なおここでW k=V kd kであり,dkは物質密度で,dk=Z kM k/U kで与えられる.式(1)の両辺にG jkを乗じ,角度範囲[2θL,2θH]における全回折線のI jkを結晶相ごとに足し合わせて次式を得る.k∑Nj=1I G jkjk= I 0QμWMk1 ? 1??U kk Z kN k∑j=1mjk2jkF???(2)ここでNkはk番目の成分に属する回折線の本数である.2θLは一番低角側に現れる回折線が含まれる角度であること,および2θHはこの方法を実行するにあたって適切な本数の回折線が含まれることがそれぞれ望ましい.7)すでにここでお気付きの読者もいるかもしれないが,式(2)の括弧内の量はパターソン関数P(u,v,w)の原点(0,0,0)におけるピークの高さに相当する.粉末回折では回折線の積分強度をそのピークの高さでしばしば近似するが,ここでは逆にパターソン関数の原点にあるピークの高さをそのピークの積分値で近似する.よって次式を得る.N1 kNA2 k2∑mjkFjk? CZk∑nikk j= 1i=1U(3)ここでCは比例定数であり,*1 n ik(i=1 to N A k)は化学式*1式(3)の左辺は[2θL,2θH]に依存する量であり,比例定数Cとこの角度範囲との関係に関しては文献7)の図1を参照されたい.単位(formula unit)を構成するi番目の原子に属する電子の個数,そしてN A kは化学式単位を構成する原子の個数である.7)ここで以下の2式を用いて2つのパラメータS kおよびakを定義する.9)SN kk jk jkj=1=∑I G(4)N Akk k iki=1a = M∑n2式(3)~(5)を式(2)に代入し,次式を得る.?1k?kkW = ? I Q C a S? ? ?0μ?(5)(6)各結晶相の重量分率w kはwk=W k/∑Wk’(k’=1 to K)によって計算され,式(6)を代入して次式を得る.Kw = a S∑a S(7)k k k k’k’k’=1パラメータS kはLorentz-polarizationなどの幾何学的因子に対する補正を施した観測強度の和である.一方,パラメータakは化学式単位に相当する化学式量および化学式単位を構成する原子に属する電子の個数のみを含み,よって対象物質の化学式がわかれば計算できる量である.ある結晶相の構造因子の二乗の和はその中に含まれる電子の個数の二乗の和で近似できるということで,ここでのパターソン関数の役割をご理解いただけたと思う.式(7)をIntensity-Composition formula(IC formula)と呼び,式(7)を用いた定量分析法をDirect-Derivationmethod(DD法あるいはDDM)と呼んでいる.7)3.実験的検証DD法を用いて,化学組成情報のみから実際にどれくらい正確に定量できるのであろうか.以下,RMSE=2( 1 K)Σ( wk?wok)で定義されるroot-mean-square errorを用いて誤差の大きさを表す.ここでw okは試験用の混合粉末試料作成時に秤量した各成分の重量分率(%),Kは成分数である.なお,式(4),(5)および(7)からわかるように,DD法の場合,化学組成が正確であれば,定量分析の結果はもっぱら観測値S k[式(4)]の精度・正確度114日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)