ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

山下恵太郎タセット(XSCALEの定義ではBが最も小さいもの)をリファレンスとしてスケール・マージされ,最終結果となる.出力された強度はMTZ形式に変換され,phenix.xtriage 27)とCTRUNCATE 21)によって分析される.MTZファイルにはMULTIPLICITYカラムとして各反射の測定多重度を記録し,視覚的に確認できるようにしている.分解能の異方性は,AIMLESS 28)と同様の方法つまり各固有ベクトル方向に沿った重み付きCC 1/2を用いて分析される.螺旋対称性は特に指定がなければPOINTLESSによる判定結果がMTZファイルのヘッダに記載されるようになっているが,正しい螺旋対称性は構造が決定されるまでわからないので,構造解析のときは注意する.結果のレポートはHTMLファイルで出力され,クラスタリング結果と統計値を視覚的に確認できるようになっている.XSCALEではdecay,modulation,absorptionの3種類の補正が行われるが,この時フレーム方向のパラメータ数を増加させることでより良い結果が得られることが多い.kamo.multi_mergeでは,例えば1°に相当するフレーム数を1バッチに割り当てるようXSCALEのNBATCH=cardを調整できるようにしている.5.実例紹介SHIKAおよびKAMOはすでに多数の構造解析に利用されている.SHIKAはBL32XUにおける微小結晶を用いた実験ではほぼ必ず利用されているし,複数のデータをマージする場合はKAMOも高い頻度で利用されている.KAMOの利用例の一部を表1にまとめた.ここに示した事例はすべて生データも公開されており,https://github.com/keitaroyam/yamtbx/wikiには生データのURLとデータ処理方法を掲載している.GUIを通して行う個別データセットの処理は基本的にはデフォルト(XDSを使用,既知の格子情報なし)で問題ないが,最適なマージの方法はいくつか種類があった.一般論として,基本的に全データが同型ならば,単にすべてをマージし,わずかに含まれる異常値を除けばそれで最良の結果となるはずである.非同型なデータの混合であったり,適切に処理されていないデータが多く含まれている場合は,クラスタリングが必要になる.実際はBLENDおよびCCクラスタリングを両方試し,低角と高角のCC 1/2を見て最良の結果を選ぶことになるが,これまでの経験では最大のクラスタつまり単にすべてのデータをマージ(異常値の棄却はあり)するのが最良の結果となっていることが多い.5.1 Polyhedraの構造解析KAMOの利用例から1つ,クラスタリングが有効であった例を詳細に紹介する.結晶試料は空間群I23のCypovirus polyhedraで,昆虫細胞内で自発的に結晶形成するタンパク質である.29)表1にも示したように,184個の結晶からそれぞれ5°のデータセットがZOOにより自動収集された.このデータセットはZenodo data repositoryから自由にダウンロードできる(https://doi.org/10.5281/zenodo.846473).以下に述べるのは,論文発表時よりも新しいバージョンで再処理した結果であるため,論文内容とは少々結果が異なる.まずKAMO GUIを用いて157データセットが同一格子として処理された.この構造はPDB code:2OH6 30)のものとほぼ同型であるので,indexing ambiguityは2OH6のデータをリファレンスに用いて解消された.マージは分解能1.55 AでBLEND,CC(I),CC(|E|2)の3つのクラスタリング方法を試した.ここではデータ評価のため,精密化済みモデル(PDB code:5GQN)を用いて,phenix.refineによる自動精密化を行った.その結果,低・高角のCC 1/2が0.989/0.753と最も高かったCC(|E|2)によるクラスタリング結果(18データセット)が,最も低いR free値(0.1765)となった.全157データセットをマージした場合(異常値棄却あり)は,低・高角のCC 1/2が0.969/0.712で,R free値は0.1939だった.異常値の棄却も行わなかった(つまりKAMOとしての機能をいっさい用いない)場合,R free値は0.2438となった.KAMOによる最良の結果と,マージにKAMOを用いなかった場合の統計値を表2に示した.相関係数によるクラスタリングは有用な結果にならないことも多いが,その理由としては,対称性の低い空間群では共通反射数が少なく,相関係数の計算が不安定だった可能性も挙げられる.特に,例えば単斜晶系で5°ずつのデータだと,多数のデータセットがほかのデータと共通反射をもたない理由でクラスタリングから除外表1 KAMOを利用した構造解析(一部).(Some of structure analyses KAMO has contributed to.)SamplePolyhedra*(mutant)†LPA 6ET BR‡TPT(Pi-bound)§AtDTX14 ?OX2R #BLT1 aPDB code5GQN5XSZ5XPR5Y785Y505WQC5X33Resolution(A)1.553.23.52.12.61.963.7Space groupI23P2 12 12 1P3 221P2 12 12P2 12 12 1C2P22 12 1degrees/wedge54, 6103~10, 305, 10, 201~62.5No. collected datasets184397167233738051265No. processed datasets15535016599139768559No. merged datasets4124114319100631494*Cypovirus polyhedra 29),†31Lysophosphatidic acid receptor LPA)6,‡Endothelin ET B receptor bound to bosentan 32),§Triose-phosphate/phosphatetranslocator bound to Pi and 3-PGA 33),? Eukaryotic MATE transporter AtDTX14 34),# Human orexin 2 receptor 35),a Leukotriene B4 receptor BLT1.36)110日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)