ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

山下恵太郎XSCALEを利用する.個別データの処理にはDIALS 20)も利用できるが,small-wedgeの処理には現時点ではXDSのほうが実績がある.CCP4パッケージ21)からはPOINTLESS,23)CTRUNCATE,BLEND 13)を利用する.KAMOはもともとSPring-8ビームライン,特にZOOの一部として利用するために開発したが,現在ではその他の施設でも利用可能である.ビームラインのジオメトリ(特にゴニオメータの回転軸方向)はイメージヘッダから判別されるが,特殊な場合は指定が必要である.SPring-8ビームラインで利用する場合は,BSSのログを監視することでデータ収集と並行した自動処理ができるようになっている.4.2個別データの処理個別wedgeの処理はGUIを通して行う.GUIを起動したディレクトリ以下のデータが対象となり,デフォルトではkamoproc/ディレクトリ以下に処理結果が保存される.個別データ処理はSGE(Sun Grid Engine)による複数ノードを用いた並列処理あるいは単一ノード上での並列処理が可能である.デフォルトではXDSを用いて指数付け・積分・強度補正が行われる.KAMOは通常,格子定数および対称性が既知であることを前提とせず,指数付けは事前情報なしで行われ,積分はP1対称性の下で行われる.既知格子定数は指定可能だが,指定することによってかえって結果が悪くなることがあるので注意が必要である.強度補正は非経験的補正因子すなわち偏光因子と空気および検出器表面による吸収の補正のみが行われる.個別データの対称性はPOINTLESS 23)を用いて判定される.Small-wedgeの場合,逆空間のカバー領域が狭いため対称性の正しい判定は困難であることが多い.実際にマージの際に用いられる対称性は,すべてのデータが処理できた時に決定される.個別データの処理経過はGUI上に示される(図5).上半分には,各データセットの実験情報と処理の成否,推定された対称性が表示される.各処理結果の詳細は下半分に表示されるが,small-wedgeの場合あまり個別の処理結果(特に分解能)に注意を払う必要はなく,マージ後に質を判断するべきである.4.3マージの準備全データセットの処理が完了したら,マージ処理に進む.ここではその準備作業について記述する.各データセットについて,P1対称性における格子定数(すなわちreduced cell)を互いに可能な変形を考慮しながら比較し,類似しているもの同士をグループ化する.グループは属するデータセットの順でソートされる.このうち,最大のグループ以外は,単に正しい指数付けに失敗したものであることが多いが,まれに同一試料であっても異なる晶系で結晶化していることがあるので,2番目以降のグループも確認しておく.各グループに関して,平均化した格子定数から計算された可能な点群対称性がリストアップされ,この中からマージ時に仮定する対称性を選択する.判断の手助けとして,各候補の対称性が実際にPOINTLESSによってそれと判定された回数(frequencies)が表示される(図6).筆者らの経験では,最もfrequencyの高い対称性が正しい対称性であることがほとんどだった.正しい対称性が明確でない場合は,より低い対称性(P1でも可)を仮定し,後述するindexing ambiguityを解消した上でマージしてPOINTLESSに判定させるなどする必要がある.上記の頻度に基づいた対称性の自動決定はすでに実装されているが,より頑健な自動決定は将来導入される予定である.マージ用の対称性が決まったら,個別データセットの強度ファイル(XDS_ASCII.HKL)は指定した対称性にreindexされ,マージ用の作業ディレクトリに保存される.次に,indexing ambiguityが存在する場合はその解消を行う.これ自体は特別なことではなく,従来も例えば2個の結晶から収集したデータをマージする際に,特定の空間群ではreindexしてからマージする必要があった.例えば空間群P4の場合,(h,k,l)→(k,h,-l)の操作(a*,b*の対角線での2回軸操作)は空間群対称には含まれない図5 KAMO GUIのスクリーンショット.(Screenshot of the KAMO GUI.)108日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)