ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

山下恵太郎図2 EIGERを用いたオンザフライHit-find機能実装.(The mechanism of on-the-fly hit-finding using EIGER detector.)処理が実現できる.Cheetahは前述のようにSFX実験のために開発されたプログラムで,SHIKAではこれに含まれるpeakfinder8関数を用いてピークサーチを行っている.peakfinder8はイメージの円環平均によってバックグラウンドを推定し,ピークサーチを行うものである.SHIKAでは通常分解能5 A以下の低角領域のみを対象としており,氷由来のピークが混入しないようにして偽陽性率を抑えている.Cheetah client内では,ピークサーチに加えてGUIやレポートHTMLで表示するためのサムネイル画像の作成も行う.現在使用している構成では,8コアCPUのXeon E5-2630 v3を2基用いて1秒間に33枚(EIGERの4M ROI機能を使用した場合は75枚)程度の速度でイメージ処理が実現できている.今のところ特にストレスはないが,計算ノードの増強によって容易に高速化可能である.SHIKA backendはCheetah clientの結果を受け取って集約し,ファイルへの保存を行う.SHIKAGUIは保存されたファイルを読むことで,結果を表示する.レポートHTMLファイルも生成され,ユーザは持ち帰ったデータからもWebブラウザを利用して結果を確認できる.KUMAへのゴニオメータ座標情報転送はXML-RPC serverの仕組みを利用して行っている.結果の評価は,スポットの平均S/N比やスポットの数などの評価基準があるが,現在のところスポットの数を最も有用な指標として利用している.GUIから評価基準を選択し,しきい値・最小距離を入力することで,自動的にスコアの高い座標を選択できる.選択した複数の座標は一度にKUMAに転送し,small-wedgeデータ収集のスケジュールを即座に構築可能である.Cheetah clientのソースコードはhttps://github.com/keitaroyam/cheetah/tree/eiger-zmq/eiger-zmqにてGNUGPLライセンス下で公開されている.その他の部分のSHIKAのコードはhttps://github.com/keitaroyam/yamtbxで公開予定である.3.Small-wedgeデータ収集本スキームでは1結晶当たり5~10°程度のみを収集し,多数の結晶に由来するデータをスケールしてマージすることで構造解析に用いる構造振幅データを得る.クライオループあるいは平板状の結晶ホルダに多数の結晶を収めておけば,一度に大量のデータが収集できる.この時,ホルダに対して同一の方位から±5°程度の振動写真を各結晶から集めることになるため,結晶方位がある程度バラついていることが重要である.これまでの経験では,ある程度偏りをもっていることは多いが,ほとんどの場合数十から百個程度の結晶を用いれば,Completeness 90%以上を達成できている.結晶サイズが小さくなるほど方位の偏りは小さくなる8)ため,微小結晶はこの点では有利である.結晶方位を実際にプロットした例を図3a,bに示す.(a)はやや偏りが大きい(c軸と入射ビーム方向が平行に近いことが多い)ように見えるが,両者ともマージ後のCompletenessは99%以上にはなっている.方位の偏りが激しい場合は,結晶を拾う際の工夫などが必要になる.データ処理はいくらか複雑になる.個別wedgeの適切な処理(指数付け・積分)が必要であることは言うまでもないが,空間群の決定も容易ではない可能性があるし,対称性によってはindexing ambiguityの問題(後述)が生じる場合がある.マージする前に同型性に基づいたデータの分類が必要な場合もあるし,実際にスケール・マージする際にはわずかに含まれる異常値が全体を悪化させることがあるため,そのような異常値の除去も必要になる.さまざまなデータの組み合わせ方があるため,結果のわかりやすい表示は必須である.これらの関連技術の多くはすでに発表されている.例えば個別データの自動処理はxia2 9)やautoPROC 10)などのパイプラインが広く利用されている.Indexing ambiguityの解決はSFXのために開発された方法がいくつか存在し,SFXでは日常的に使用されている.11),12)同型性に基づいたデータ分類に関しては,階層的クラスタリングがよく使われており,格子定数によるクラスタリング13)とデータ間相関係数によるクラスタリング14)が発表されている.さらに別の手法として,多次元尺度構成法を用い,系統的な違いに106日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)