ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

X線結晶解析による分子ダイナミクスの解明と機能性結晶の開発の分極は著しく増大し,単結晶試料に近い大きな分極値を示すことがわかった.このことは粉末試料中でランダムに向いている多結晶粒子の分極軸の方向が印加した電場方向に揃ったことを意味している.また,この性質は高温相が立方晶系の構造となる強誘電性結晶に共通のものであり,ほかの柔粘性/強誘電性結晶においても共通して見られることがわかっている.20)5.おわりに本稿では,結晶中での分子配向変化,結晶フォトクロミズム,強誘電性結晶の開発に関する筆者の研究のいくつかを紹介した.それぞれの研究は,一見するとずいぶん異なるものではあるが,実はつながりがあり,いずれも結晶中での分子ダイナミクスとそれに由来する結晶構造的特徴が重要な役割を果たしていた.また,これらの研究で気づいたのは,すでによくわかったと思われている現象も,改めて調べてみると面白い発見があること,そして,例えば二光子励起と結晶解析,柔粘性結晶と強誘電性,というような一見縁遠いように見えていた手法や性質が,実は意外にうまく結びつくということである.これからも,結晶中の分子ダイナミクスに関連した,古いように見えて新しい,面白い現象が見つかることを期待したい.謝辞筆者が大学院生として在学中,そして助手・助教として在職中に,東京大学大学院にて小川桂一郎先生にご指導いただくことがなければ,結晶学にかかわることはなかったと思います.また,博士研究員として東京工業大学にてご指導いただいた大橋裕二先生のおかげで結晶解析を用いて化学反応を見る面白さを知ることができました.そして,北海道大学で稲辺保先生の研究室に准教授として加えていただき,より広い視野で分子性結晶をとらえることができるようになりました.本稿で紹介した研究を行うにあたり,多くの方々にお世話になりましたが,特にこれらの先生方のご指導とご協力に心から感謝したいと思います.文献1)J. Harada and K. Ogawa: Chem. Soc. Rev. 38, 2244(2009).2)原田潤:日本結晶学会誌55, 19(2013).3)J. A. Bouwstra, A. Schouten and J. Kroon: Acta Crystallogr., Sect. C39, 1121(1983).4)J. Harada, K. Ogawa and S. Tomoda: Acta Crystallogr., Sect. B 53,662(1997).5)J. Harada and K. Ogawa: J. Am. Chem. Soc. 123, 10884(2001).6)J. Harada, M. Harakawa and K. Ogawa: Acta Crystallogr., Sect. B60, 589(2004).7)J. Harada and K. Ogawa: Struct. Chem. 12, 243(2001).8)J. Harada and K. Ogawa: Cryst. Growth. Des. 14, 5182(2014).9)J. Harada, M. Harakawa and K. Ogawa: CrystEngComm 11, 638(2009).10)J. Harada, M. Harakawa and K. Ogawa: CrystEngComm 10, 1777(2008).11)J. Harada and K. Ogawa: J. Am. Chem. Soc. 126, 3539(2004).12)K. Saito, Y. Yamamura, K. Kikuchi and I. Ikemoto: J. Phys. Chem.Solids 56, 849(1995).13)A. Senier and F. G. Shepheard: J. Chem. Soc. 95, 441, 1943(1909).14)M. D. Cohen and G. M. J. Schmidt: J. Phys. Chem. 66, 2442(1962).15)J. Harada, H. Uekusa and Y. Ohashi: J. Am. Chem. Soc. 121, 5809(1999).16)J. Harada, R. Nakajima and K. Ogawa: J. Am. Chem. Soc. 130, 7085(2008).17)J. Harada, M. Taira and K. Ogawa: Cryst. Growth. Des. 17, 2682(2017).18)J. Harada, M. Ohtani, Y. Takahashi and T. Inabe: J. Am. Chem. Soc.137, 4477(2015).19)J. Harada, T. Shimojo, H. Oyamaguchi, H. Hasegawa, Y. Takahashi,K. Satomi, Y. Suzuki, J. Kawamata and T. Inabe: Nature. Chem. 8,946(2016).20)J. Harada, N. Yoneyama, S. Yokokura, Y. Takahashi, A. Miura, N.Kitamura and T. Inabe: J. Am. Chem. Soc. 140, 346(2018).プロフィール原田潤Jun HARADA北海道大学大学院理学研究院Faculty of Science, Hokkaido University〒060-0810札幌市北区北10条西8丁目Kita 10, Nishi 8, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060-0810, Japan最終学歴:東京大学大学院理学系研究科博士課程,博士(理学)専門分野:有機物理化学,固体物性化学現在の研究テーマ:新規機能性結晶の開発と結晶構造解析による機能発現機構の解明日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)103