ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

ページ
31/98

このページは 日本結晶学会誌Vol60No2-3 の電子ブックに掲載されている31ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

放射光X線粉末回折による確度の高い構造因子の計測および未知構造決定める際に当時理研の宮野先生や吾郷先生からさまざまな指摘をうけて開発した方法で,タンパク構造解析でフーリエ合成の電子密度で行われている方法をMEMに移植したものである.コハク酸プレドニゾロンの解析例を図5に示す.この物質の場合,プレドニゾロン部分はしっかりした骨格をもち,コハク酸部分に多数の回転自由度がある.この回転自由度の決定が非常に困難で複数分子のため類似構造が多数あらわれる.プレドニゾロン部分を残して残りを削除した構造モデルで作成したMEMによるomitマップが真ん中の図である.プレドニゾロン部分からつながった電子密度を確認することができる.この電子密度に合うようにコハク酸部分を配置したのが下の図になる.このようにモデルを再構築し,Rietveld解析による精密化を行った.構築前と構築後の回折パターンの高角領域の一致度を図6に示す.構築前は2θ=30°あたりから一致度が悪化するが,構築後は2θ=40°を超えても非常によく一致(a)していることがわかる.このパターン音一致度を与える構造モデルを図7に示す.構造モデルは非常によく似ているが,分子の曲がり方が異なっている.一見するとほとんど同じに見える分子構造でも高角のパターンでは明瞭に違いがわかることが見て取れる.この例のように,分子性物質の構造決定でもd?1 A領域の回折データが非常に重要である.コハク酸プレドニゾロンの研究が終わったのち,別で進めていた専用計算機を用いたタンパク質の構造決定法の開発の研究で共同研究をしていた理研の戎崎先生から,「グラフィックカードで専用計算機と類似の計算ができる(General-purpose computing on graphics processingunits:GPGPU).粉末未知構造決定は,この方法で性能を高められる」との助言をいただいた.どうやって始めればよいかを戎崎先生にお聞きしたところ,グラフィックカードを用いた量子科学計算の高速化の研究をしていた名古屋大学の安田耕二先生を紹介いただいた.安田先生から多大なアドバイスをもらって開発した手法のGPGPU化を進めた.この開発は,興味をもって進めて(a)(b)(b)図6コハク酸プレドニゾロンの高角領域のRietveld解析の結果.(a)モデル構築前,(b)モデル構築後.(Fitting result of Rietveld refinement for PrednisoloneSuccinateinhigherangleregion.(a)beforemodelreconstruction,(b)after model reconstruction.)図7コハク酸プレドニゾロンの構造モデル.(a)モデル構築前,(b)モデル構築後.(Structure model of PrednisoloneSuccinate.(a)before model reconstruction,(b)aftermodel reconstruction.)日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)93