ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

西堀英治たのに対し,この研究では104本の構造因子を観測することに成功した.表1に測定した構造因子と加藤先生のデータを示す.低角領域のみを示した.誤差の大きさである精度では加藤先生のデータに及ばないものの,誤差約2倍で構造因子を決定できている.図2表1粉末回折とペンデル縞干渉法で求めたシリコンの原子散乱因子.(Atomic scattering factors determinedform powder diffraction and Pendellosung method.)粉末回折とペンデル縞干渉法によるシリコンの低角の構造因子.(Structure factors of low order reflectionsfor silicon by powder diffraction and Pendellosungmethod.)F(h k l)hklPowder 100KPowder 300KSaka Kato 294K111-60.4(1)-60.0(1)-60.13(5)220-68.3(1)-67.2(1)-67.34(5)311-44.3(1)-43.4(1)-43.63(3)2221.6(3)1.6(3)400-57.7(2)-56.0(2)-56.23(4)33139.7(1)38.5(1)38.22(3)42251.3(1)49.3(1)49.11(4)33334.5(2)32.9(2)32.83(2)51134.5(1)32.9(1)32.94(2)44045.5(2)43.1(2)42.88(3)53130.7(1)28.9(1)28.81(2)62040.3(2)37.4(2)37.59(6)533-27.5(2)-25.5(2)-25.36(4)こうして決定した構造因子を利用して,シリコンとダイヤモンドの価電子密度分布を求めた.図3に求めた価電子密度分布を示す.この時,価電子密度分布を求めた理由は,多くの第1原理計算のシリコンとダイヤモンドの報告で価電子密度分布が示されていたため比較に適していると判断したためである.結合中点の電子密度の値はシリコンが0.56 eA -3,ダイヤモンドが1.64 eA -3であり,理論的な報告であるシリコン0.55~0.59 eA -3,ダイヤモンド1.53~1.69 eA -3の範囲に入る値であることがわかった.以上のようにして,シリコンとダイヤモンドについて確度の高い構造因子の測定に成功したわけである.この研究をActa Crystallography A誌に報告すると,すぐに多極子展開による電子密度解析ソフトウェアWinXDや単結晶構造解析ソフトWinGXの作者LouisFarrugiaよりデータを使ってみたいとの連絡があった.また,以前からの共同研究者であるDenmarkのBo Iversenは,博士課程の学生Helle Svendsenを私のもとに送ってきて,この時測定したダイヤモンドのデータを利用した粉末回折データの多極子展開解析による国際共同研究がスタートした.この研究で,測定した構造因子は多極子展開による解析でも評価され,通常の単結晶X線回折で測定されるデータよりも電子密度分布解析に適していることが立証された.8)多極子電子密度解析を論文発表したのち,HelleSvendsenからもう一度データを使わせてほしいとの連絡が入った.ドイツのWolfgang Schereとの共同研究で多極子電子密度解析を拡張した解析法を試すのに使いたいとのことであった.多極子電子密度解析では通常Hansen Coppens modelと呼ばれるモデルが利用される.このモデルは,原子の電子密度をコアと価電子に分割し,価電子に広がりと球面調和関数による変形のパラメータを与え,電子密度分布を表す.彼らが利用したのはExtend Hansen Coppens modelと現在では称される方法であり,コア部分の変形もパラメータ化したモデルである.このモデルを利用することで,ダイヤモンドの残差密度に存在したわずかな残差も消失することがわかっ図3ダイヤモンド(左)とシリコン(右)の価電子密度分布.(Valence charge density map of silicon and diamond.)90日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)