ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

日本結晶学会誌60,88-95(2018)総合報告(学会賞受賞論文)放射光X線粉末回折による確度の高い構造因子の計測および未知構造決定筑波大学数理物質系西堀英治Eiji NISHIBORI: Synchrotron X-ray Powder Diffraction Studies of Accurate Structure-Factors Measurement and Ab Initio Structure DeterminationOur synchrotron radiation(SR)X-ray powder diffraction studies of accurate structure factorsmeasurement and ab-initio structure determination during past couple of decades have been describedwith some details. These studies were carried out using SR powder profiles measured at SPring-8.This paper organized as follows:First the performance and an advantage of powder diffraction profilemeasured at SPring-8. Second, accurate structure factors measurement using SPring-8 together withrecent topics. Third, we introduced the strong point of SPring-8 data for structure determination frompowder diffraction with some examples. Finally, I will describe summary of this paper.1.はじめに表題のタイトルにて日本結晶学会学術賞をいただいた.身に余る光栄を強く感じている.タイトルを見ると,分野や物質が明確に示されているわけではないため,受賞理由や,受賞講演を聞いていない人には内容がわかりにくいと感じられる.2種類の研究が対象になっているが,その関係もわかりにくい.このため,本稿では私の研究を行っていた当時の環境や考えを述べつつ研究を述べる形とする.物質や物理現象,化学現象が対象になっていないように見える表題の研究の意義,目的,成果をわかってもらうためにはそのほうが適していると判断したためである.大学4年生で坂田誠名古屋大学名誉教授(当時助教授)の研究室に配属されて以来,実験室,放射光施設で粉末X線回折による研究を一貫して進めてきた.大学院を修了しそのまま助手に着任したころまでは,主にPhoton Factory(PF)にて,当時のBL6A2のIPカメラ,BL4B2の多連装回折計,BL3Aの4軸回折計,BL4CのHuber4軸回折計,BL9C(当時NEC BL)の4軸回折計,BL18CのIPカメラなど,さまざまなBLと回折計を使って粉末回折データを測定していた.低温の測定が必要だったり,試料が少なかったり,高圧データが必要だったりとさまざまな条件を満たすBLと装置を選択し,データ測定を行っていた.1997年にSPring-8が建設され,さまざまなBLと装置を使って進めていた研究のほとんどを単一のBLと回折系で実現できると聞かされた.研究室を率いていた坂田先生と当時島根大学にいた高田先生が提案した粉末回折計がSPring-8に設置されることが決まり,1)私は立ち上げに参加する機会を得た.この立ち上げへの参加は,私自身の研究者としての将来に大きな影響を与えた.SPring-8のようにある意味ほとんどが理想的な状態で整っている場合,測定されるデータは理屈通りになることが最初は衝撃だった.これまでPFで装置,BLを変えるたびに違っていた回折線幅の高角領域での広がり方が,波長分散(エネルギー分解能)を考えればすべて説明できることを知った.当時,ほとんどのBLでΔE/E=10 -4のSi 111反射のバンド幅がそのまま記載されており,これは実際とはかなり異なっていることを知ったときは驚きだった.このころ,名古屋大学にいる際,大学で名誉教授の加藤範夫先生とお会いして話をすることもたびたびあった.加藤先生の研究へのあこがれと分光結晶に関する興味から,動力学回折理論とX線光学に興味をもち自習した.この時学んだことは現在,私自身の大学院の講義の引き出しの1つになっている.図1にレイトレースで求めた回折線幅の高角領域での広がりと,入射X線のエネルギー分解能ΔE/Eとの関係を示す.この値が10 -4になるあたりでほとんど回折線幅の広がりは見られなくなる.この値から見積もると,過去にPFで実験していた際のΔE/Eは10 -3オーダーであり,BLの光学系によって違いも多かったために測定のたびに状況が異なっていたと考えられる.この領域の場合,少しのエネルギー分解能の変化で高角の線幅が大幅に変わるためである.また,立ち上げに参加していた時には,世界各国の研究者とともに実験する機会に恵まれた.当時,気になっていたのは,SPring-8に先行する第3世代放射光施設EuropeanSynchrotron Radiation Facility(ESRF)やAdvanced Photon88日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)