ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

既知の結晶構造から未知のモデルへ図5 K 2SO 4多形のベルニクハウセンツリー.(上)高温相.(中)高温相のt-部分群で表現した結晶構造モデル.(下)低温相の結晶構造モデル.表5 K 2SO 4の低温相のモデル(高温相から反映されたもの)と実物の低温相の原子座標の比較と差高温相から得られたモデル低温相のデータ差原子xyzxyzΔxΔyΔzAK1??0?0.2864-0.008100.03640.00810.381K2?7/12??0.58620.69200.00290.05800.458S?7/12??0.58220.240100.00110.00990.0079O21??0.384?0.58450.059600.08450.05640.979O21'??0.116?0.44880.294200.05120.08980.883O22??0.3840.44960.64670.29730.07460.02170.08670.844軌道を比較する場合は必ずしも同じ代表が選択されるとは限らない.片方のモデルを固定しながら他方のモデルの等価な原子を利用し,比較する必要がある.K 2SO 4の例の場合は,O21'のnx,y,?において等価な原子を選択する必要があった.高温相から得られたモデルと低温相の構造解析結果の比較を表5に示す.高温相から得られたモデルと低温相のデータは最大1 A以下と異なるので,前者を初期モデルとして利用すれば構造精密化を速やかにできる.上記の考察は,多形の構造関係を示しているが相転移の機構を説明しているわけではない.特にK 2SO 4の場合一部の原子(酸素)が大きく移動する秩序・無秩序型相転移であるため,構造関係は変位型相転移と違って直接に転移機構に関する情報をもたらすとは限らないことに注意が必要である.5.Aristotypeからhettotypeの構造モデルを導く多形の相転移と同様な過程なので,黄鉄鉱を例に説明しよう.日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)黄鉄鉱FeS 2は数多くの化合物のaristotypeである.黄鉄鉱の構造はPa3空間群タイプに結晶化し,原子座標はベルニクハウセンツリー(図6)にある.ゲルスドルフ鉱(NiAsS)はその1つである.ゲルスドルフ鉱は3つの多形をもち,その1つはP2 13という空間群タイプに結晶化する.ゲルスドルフ鉱の空間群は黄鉄鉱のt-2部分群である.元素の対応関係Fe?Ni,S?(As,S)から金属原子の軌道は分割せずに席対称性が低下し,非金属原子の軌道は分割すると予想できる.確かに金属の席対称群は.3.から.3.に低下することによってワイコフ位置の多重度は4のままである.一方,非金属原子の軌道は分割し,多重度は8から4に下がる.初期モデルは鉄0,0,0→ニッケル0,0,0,硫黄(x,x,x;x,x,x:x=0.384)→硫黄(x,x,x:x=0.384)とヒ素(x,x,x:x=0.616)となる.図6に構造精密化で決定した座標を示した.なお,原子半径が異なるため格子定数も異なるが両方の化合物が立方構造をもっているため座標に大きな変化は見られない.黄鉄鉱から別の歩みで輝コバルト鉱(CoAsS)を導くことができる.後者の空間群タイプはPa3の最大部分群85