ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

ページ
21/98

このページは 日本結晶学会誌Vol60No2-3 の電子ブックに掲載されている21ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

既知の結晶構造から未知のモデルへ表1石膏の低圧相と高圧相の原子座標の比較と差原子xyz原子xyzCa(低圧)00.170500.25O2a(低圧)0.199970.381950.91298Ca(高圧)0.000010.170200.25001O2a(高圧)0.196500.380530.90160差0.000010.000300.00001差0.003470.001420.01138S(低圧)00.327270.75O2b(低圧)0.699970.881950.91298S(高圧)00.319620.74989O2b(高圧)0.689700.880580.90850差00.007650.00011差0.010270.001370.00448O1a(低圧)0.083190.272180.59103OWa(低圧)-0.208230.06826-0.07831O1a(高圧)0.083100.265170.58920OWa(高圧)-0.190000.06393-0.07700差0.000090.007010.00183差0.018230.004330.00131O1b(低圧)0.583190.772180.59103OWb(低圧)0.291770.56826-0.07831O1b(高圧)0.596100.771730.59140OWb(高圧)0.310000.55847-0.07550差0.012910.000450.00037差0.018230.009790.00281という空間群に結晶化する.853Kで相転移が起こりPmcn,a=5.927,b=10.318,c=7.882 Aに変化する.高温相の単位胞の体積は243.90 A 3であり,低温相(β)は482.02 A 3であるので,単位胞はほぼ2倍になる.PmcnはPnmaの非標準設定であり,P6 3/mmcの最大部分群ではないので相転移の歩みをいくつかの段階に分ける必要がある.まずヘルマン定理を思い出そう.P6 3/mmcとPmcnの間に前者のt-部分群と後者のk-超群が存在する.仮にこの群をMと呼称しよう.Pmcnはmmm幾何的結晶類に属するのでMも同じ幾何的結晶類に属さなければならない,MはP6 3/mmcのt-部分群でなければならない.文献9)を検討するとP6 3/mmcのt-最大部分群は8個存在することがわかる:P62c,P6m2,P6 3mc,P6 322,P6 3/m,P3m1,P31mc,Cmcm.幾何的結晶類はそれぞれ62m,6m2,6mm,622,6/m,3m1,31mおよびmmmである.明らかに正解はCmcmである.しかし,P6 3/mmcの最大部分群Cmcmは3個あり,それぞれの基底変換はa,a+2b,c;b,-2a-b,c;-a-b,a-b,cである.これらはP6 3/mmcの共役部分群である(文献4)を参照).実は六方格子を直方(斜方)の単位胞で表現すると(001)面内の基底ベクトルはb=a3 ?あるいはa=b3 ?という特別な関係をもっている.この非慣用単位胞は「直方六方」(orthohexagonal)という.六方単位胞に比べて体積は2倍になるが,もとのhPの基底ベクトルの1つはoCの複合ベクトルになるので格子はいっさい変わっておらず,格子の記述(単位胞)のみ変更する.高温相の格子定数を低温相の基底で表現するとa=5.890,b=10.2018,c=8.118 Aとなる.低温相の格子定数と比較するとほぼ一致することがわかるので途中のM空間群は正にCmcmであることは間違いない.次の段階はCmcmのk-最大部分群Pmcnへの変更である.基底の変換を導くために前者の拡張記号(文献1)を参照)と単位胞の[001]に沿った投影(図4)が役に立つ.図4Cmcm空間群タイプとPmcn空間群タイプの比較.後者が前者のk-最大部分群の場合はこれらの図の比較から原点の移動を決定できる.[100]方向に共通の対称要素(2回螺旋軸)は前者の場合はy=?,z=0を通り,後者の場合は原点を通る.それに垂直な鏡映面はx=0を通るのに対して,後者の場合はx=?を通る.[010]方向に共通の対称要素(これも2回螺旋軸)は前者の場合はx=?,z=?を通り,後者の場合はx=0,z=?を通る.それに垂直なc映進面は前者ではy=0を通るのに対して,後者の場合はy=?を通る.最後に[001]方向に半分の2回螺旋軸が残存し,面(同時に鏡映面とn-映進面)はどちらもz=?を通る.その結果,CmcmからPmcnへの原点の移動は±?,±?,0となる.(文献12)より,国際結晶学連合の提供).日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)83