ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

ネスポロマッシモ図3石膏の相転移のベルニクハウセンツリー.低圧相(α)と高圧相(b)の結晶構造を群・k-最大部分群で整理できる.低圧相の空間群を低下させることによって,高圧相の構造モデルを導く.最初の段階で格子定数を保ちながら低圧相の座標を高圧相の規定で表現する.C2/cからP2 1/nへの変化に従ってt(?,?,0)並進で関連付けられていた原子は独立し,2回回転軸に乗っていなかったワイコフ位置が分割し,その他は席対称群が低下する.次の段階で,高圧相の格子定数を考慮の上,低圧相で制限されていた座標は解除し,C2/cから反映された値から多少ずれる.図に示した精密化の結果は低圧相から反映されたモデルに近い.(2a)複合ベクトルが消失する.このような低下は群の慣用単位胞が複合の場合のみ可能となる.例えば,C2/cからP2/cあるいはP2 1/c(基底ベクトルが平行)の相転移はここに属する.(2b)拡張単位胞,非同型空間群.娘相の格子は親相の部分格子でありながら空間群タイプは異なる.(2c)拡張単位胞,同型空間群.娘相の格子は親相の部分格子でありながら空間群タイプは同じである.例えば,Cmmmからa,b,2cという基底変換(原点は共通)で消失する操作によって数多くの部分群が得られる:Ibmm,Imam,Ibam,Immm,Cccm,Ccmm,CmcmおよびCmmm.最後のものは同型部分群である.なお,IbmmとImamはImmaの非標準設定,同様にCcmmはCmcmの非標準設定である.演習問題1 Cmmmからa,b,2cという基底変換(原点は共通)のIbmmとImamという最大部分群を導いた上で標準設定に変更せよ.最大部分群でない場合は,部分群のチェインを通して対称性を低下させることができるが,ベルニクハイセントリーの各節点ではそれぞれの最大部分群の情報が示されていることに注意が必要である.なお,文献4)で紹介したとおり,ヘルマン定理によって,一般群・部分群を分析する場合,途中の一意のt-部分群が存在する.3.娘相の空間群が親相の最大部分群である場合石膏CaSO 4・2H 2Oは低圧でC2/c,a=6.277,b=15.181,c=5.672 A,b=114.11°という空間群に結晶化演習問題の解答はJ-Stageに付録として掲載してあります.する.7)高圧で石膏-IIに転移を受け,P2 1/nという空間群タイプに変化する.5.35 GPaという圧力で格子定数はa=5.865,b=15.045,c=5.478 A,b=115.3°となり,単位胞の体積は493.340 A 3から437.000 A 3に圧縮される.8)圧縮率は1割余りなので高圧化の影響であり,基底のベクトルは低圧相のベクトルに平行である.しかし,単位胞はCからPに変化し,(?,?,0)という並進操作は相転移によってなくなる.なお,C2/cとP2 1/nは同じ幾何的結晶類2/mに属するので高圧相は低圧相のk-部分群に転移する.図3はこの相転移のベルニクハウセンツリーを示す.低圧相ではカルシウムと硫黄は4eという特殊位置(席対称群2)におり,酸素は一般位置にある.高圧相ではすべての原子は一般位置(4e)を占める.カルシウムと硫黄の位置は分割せず席対称群が2か1に低下するのに対して酸素の位置は分割する.低圧相から得られるモデルはCa,Sはそのままであり,Oは3個から6個になる.追加の3個の原子はC2/cでの(?,?,0)並進操作で導く.具体的にO1,O2,OW(OWは水分子の酸素)はO1a,O2a,OWaとし,座標はそのままで,O1b,O2b,OWbはそれらの座標に(?,?,0)並進を施す.このようにして得られた高圧相の初期構造モデルを精密化した結果を図3に示す.座標の差は表1に示すように小数点以下二桁目より小さく,高圧相では圧縮の効果が認められるものの,意外と低圧相の構造に近い.4.娘相の空間群が親相の最大部分群でない場合娘相の空間群が親相の最大部分群でない場合は,一般にその関係は複雑である.しかし,これまでの学習で得た知識を応用すれば解決できる.本節では,K 2SO 4の例を詳細に分析してみよう.K 2SO 4の高温相(α)はP6 3/mmc,a=5.890,c=8.118 A82日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)