ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

既知の結晶構造から未知のモデルへ図1対称性の低下による結晶軌道の変更.単位胞内のある位置の周りに4個の結晶軌道(色別)に属する8個の原子が表示されている.親相の空間群Gでその位置の席対称群はmm2とする.空色の結晶軌道は一般位置に属し,それらの原子のワイコフ位置は多重度が4,席対称群が1である.その他の結晶軌道はすべて特殊位置を占めている.黄色,赤色と紺色の結晶軌道に属する原子はそれぞれ多重度が2,2,1,席対称群がm..,.m.,mm2である.娘相の空間群HはGの部分群とする.対称性の低下によって消失した対称要素([001]に垂直鏡映面および[001]に平行な2回回転軸)で関連付けられていた原子は独立し,その結晶軌道は分割する.具体的には,等価だった空色の4個の原子は2つの対(勿忘草色,藍色)に分化する.同色の原子は残存する対称要素([010]に垂直な鏡映面)で関連付けられている.席対称群は変更しない.同様に,等価だった黄色の2個の原子は独立になり(菜の花色,菜種油色),分化する.一方,赤い色の原子は娘相でも等価のままであり,席対称群が1に低下する.同様に,紺色の原子もm..に低下する.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.図2対称性の低下によるワイコフ位置の変化.PbamからPba2への例(基底ベクトルは平行).左:Pbamのモデル.中:PbamのモデルをPba2で書き直したもの.右:対称性の低下によるモデルの変化.2aというワイコフ位置は分割せずにそのまま部分群に反映されるが席対称群は..2/mから...2に低下するのでz座標の制限が解除される.このワイコフ位置に属する結晶軌道はPbamの1個からPba2の無限個になる.z=0という結晶軌道は群からそのまま得られたものだが相転移によってz=0から多少ずれるであろう.4eのワイコフ位置の場合は席対称群は低下しないが,その代わりに結晶軌道が2つに分割する.2.部分群の分類とベルニクハウセンツリー群・部分群の関係が成り立っている相転移,またはaristotype→hettotypeの関係をベルニクハウセンツリー(Barnighausen tree)というグラフで表現することができる.6)グラフの各節点に空間群(完全記号:文献1)を参照),化合物の化学組成か化合物名,ワイコフ位置を表示して,節点を結びつける枝は基底の変換を示す.最大部分群の関係でない場合その関係を2つ以上のステップで分けられるが途中の節点は必ずしも実存の化合物に相当すると限らない.最大部分群の基底の変換やワイコフ位置の分割は日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)International Tables for Crystallography Vol. A1 9)に掲載されている.しかし,群の基底を固定すると必ずしも部分群の標準設定を得ると限らないので設定変換の必要性を考慮しなければならない.具体的には,群・最大部分群の関係を以下のように分類できる.(1)t-最大部分群:体積の圧縮か伸張を無視すれば基底は変更しないのに対して,点群操作の一部が消失する.上記のPbamからPba2の例はこれに相当する.(2)k-最大部分群:部分群の点群は群の点群と同じだが一部の並進操作が消失する.3種類の部分群に分類できる.81