ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

四重マンガンペロブスカイトの二機能性酸素反応触媒作用して,過電圧η(η=E onset-1.23 V)を比較するとAMnO 3の約0.43 Vに対しAMn 7O 12では約0.3 Vと,0.1~0.15 V程度小さくなっている.1.7 V vs. RHEにおける比活性もAMn 7O 12では30倍程度になっているため,同一の遷移元素・イオンによって構成される化合物間の比較では四重ペロブスカイト型酸化物のほうがOER触媒活性が高いことがわかった.一方,ORRにおける立ち上がり電位は約0.9 V vs. RHEとほぼ同じであり(図2右),結晶構造によるORR触媒活性への影響は小さいことがわかった.上述の四重ペロブスカイト型酸化物におけるOER触媒活性向上のメカニズムについて,スラブモデルを用いた表面吸着エネルギーの計算を行い,律速過程の推定と理論過電圧の計算を行った.5)現在提唱されているOERの反応機構の中の1つはペロブスカイト型酸化物の八面体型BO 6ユニットのうち酸素が1つ欠損したピラミッド型のサイトに対して3種類の中間体HO*,O*,HOO*を経て酸素分子が生成するというものである(図3a左).4つの反応素過程における自由エネルギー変化ΔGi(i=1~4)は3種類の反応中間体の吸着エネルギーに依存する.電気化学反応条件下において吸着エネルギーを実験的に調べることはきわめて困難であるため,第一原理計算により求めることが必要である.理論過電圧ηth.は式(1)に示すように,ΔGi(i=1~4)のうち,最も大きな値を電荷素量eで割った値から酸素発生反応の平衡電位である1.23 V(vs. RHE)を引いた値として定義される.ηth.= max ? ? ?G1, ?G2, ?G3,?G4 ? ? e ?1.23 ?? V??(1)理論過電圧の計算には熱力学的な値のみを用いており,活性化障壁の大きさは考慮していないが,この理論過電圧の値は実験結果の傾向をよく再現することが報告されている.6)OER平衡条件下において安定に存在することが確認された,LaMn 7O 12(220)面における複数の吸着サイトを図1bに示している.吸着エネルギーはサイト依存性があるため,各サイトについてOER中間体HO*,O*,HOO*の吸着エネルギーを調べた.その結果,(220)面においてはA’-MnとB-Mnの間に中間体が吸着するbridgeサイトにおいてすべてのOER中間体が最も安定に吸着すると予測された.一方で,その他の吸着サイトについては中間体が安定して吸着することは困難であることが予測された.そのため(220)面ではbridgeサイトを介してOERが進行すると仮定した.続いて,図3bにLaMn 7O 12の(220)面とLaMnO 3のMnO 2終端(001)面におけるOER自由エネルギーダイアグラムを示す.どちらの表面においても最大のΔGi(i=1~4)に相当する反応素過程は2であった(図3a).LaMnO 3のMnO 2終端(001)面では理論過電圧は0.81 Vであったのに対し,LaMn 7O 12(220)面では0.65 Vであった.この理論過電圧の差分0.16 Vは実験過電圧の差分0.15 Vとよく一致することか日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)図3第一原理計算によって得られたLaMnO 3とLaMn 7O 12の酸素発生反応における(a)反応サイクルと(b)エネルギーダイアグラム.5)(Proposed OER reactioncycles(a)and energy diagrams(b)for LaMnO 3 andLaMn 7O 12.)赤:LaMn 7O 12(220),緑:LaMn 7O 12(001),青:LaMnO 3(001),橙:理想触媒.らLaMn 7O 12表面では四重ペロブスカイト型酸化物特有の結晶構造に由来するbridge吸着機構でOERが進行し,高い触媒活性を示すことが示唆された.bridge吸着構造においてBサイトとA’サイトそれぞれのMnと中間体間における化学結合の強さを結合距離と電荷密度の観点から解析すると,BサイトMnと比較してA’サイトMnのほうが弱い化学結合を形成していることが明らかになった.これは表面に露出しているB-Mnは酸素が1つ欠損した「配位不飽和」環境になっているのに対し,A’-Mnは酸素が欠損しておらず「配位飽和」環境になっているためであると筆者らは考えている.一方,α-Fe 2O 3表面において等価なbridgeサイトを形成する場合には理論過電圧が低下しないことが報告されている.7)四重ペロブスカイト型酸化物表面における非等価なbridge吸着機構は今後,新しい触媒設計の指針の1つとなることが期待される.謝辞本研究は,多くの共同研究者の協力を得て行われた.また,科研費(B15H04169,16H00893,B16H04220,17K19182,17K18973,and 26106518),東レ科学技術研究助成の支援の下で実施された.深く感謝を申し上げる.文献1)E. Fabbri, et al.: Catal. Sci. Technol. 4, 3800(2014).2)W. T. Hong, et al.: Energy Environ. Sci. 8, 1404(2015).3)S. Yagi, et al.: Nat. Commun. 6, 8249(2015).4)I. Yamada, et al.: Adv. Mater. 29, 1603004(2017).5)A. Takamatsu, et al.: J. Phys. Chem. C 121, 28403(2017).6)I. C. Man, et al.: ChemCatChem 3, 1159(2011).7)X. Zhang, et al.: J. Phys. Chem. C 120, 18201(2016).77