ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

日本結晶学会誌60,76-77(2018)最近の研究動向四重マンガンペロブスカイトの二機能性酸素反応触媒作用大阪府立大学大学院工学研究科山田幾也,高松晃彦,池野豪一東京大学生産技術研究所八木俊介Ikuya YAMADA, Akihiko TAKAMATSU, Hidekazu IKENO and Shunsuke YAGI:Bifunctional Electrocatalysis of Quadruple Manganese Perovskite Oxide for OxygenReactions酸素がかかわる電気化学反応は,水電解水素製造,燃料電池,金属・空気二次電池など,さまざまなエネルギー変換を担う.1),2)酸素発生反応(Oxygen evolution reaction,OER)と酸素還元反応(Oxygen reduction reaction,ORR)は,O 2/H 2O酸化還元対の平衡電位である1.23 V vs. RHE(可逆水素電極)よりもそれぞれ貴または卑な電位において起こるが,活性化エネルギーに相当する過電圧を印加しなければ現実的な速度で反応は進行しない.過電圧はエネルギー損失,副反応の進行,電極材料の劣化など,さまざまな問題を引き起こすため,適切な触媒を電極表面に塗布・担持して過電圧を抑制する必要がある.加えて,現在実用化されているOER・ORR用触媒はいずれも貴金属元素(Ru,Ir,Pt)を主成分として含むため,より安価で存在量の多い元素からなる新しい触媒材料の開発が必要とされている.遷移金属酸化物・水酸化物はOER・ORR触媒として広く研究されており,その中でも組成・構造・電子状態のチューニングの自由度が高いペロブスカイト型酸化物は,系統的な研究が可能である.結晶化学的観点からは,結晶構造と触媒特性(活性)の相関に興味が生じる.本稿で紹介するのは,互いに近い化学組成を有する一方で結晶構造の異なる単純・四重ペロブスカイト型マンガン酸化物における構造・活性の相関である.3)-5)単一の遷移金属イオンを八面体配位のBサイトに含む単純ペロブスカイト(一般式ABO 3)に対し,四重ペロブスカイト(一般式AA’3B 4O 12)では,平面4配位のA’サイトをCu 2+やMn 3+などのヤーン・テラー活性イオンを始めとしたいくつかの種類の遷移金属イオンが占有する(図1a).単純ペロブスカイトのBO 6八面体フレームワークに加えて秩序配列したA’O 4平面が加わるため,構造変化や元素の複合化による活性の向上が期待される.A’とBサイトの両方をMnイオンが占有する四重ペロブスカイトAMn 7O 12(A=Ca,La)は,単純ペロブスカイトAMnO 3(A=Ca,La)と比較して,結晶構造の違いによって生じる触媒活性の変化を調べることができる.特にA=Laではいずれの構造においてもMnイオンは3価であるため,価数の違いによる影響も排除することができる.図2に示すのはOER・ORR条件における電流密度・電位曲線である.4)OER(図2左)では,より低い電位で電流密度の立ち上がりが生じていると過電圧が低く,立ち上がり後の傾きが急峻で任意の電位における電流密度が大きいものは,活性の高い触媒と判断される.Aサイトイオンの種類によらず,AMn 7O 12(A=Ca,La)はAMnO 3と比較して低い電位で立ち上がり,任意の電位での電流密度(比活性)も大きい.触媒表面積当たりの電流密度が0.01 mA cm-2 oxideを超える電位を反応開始電位E onsetと図1単純ペロブスカイト酸化物LaMnO 3と四重ペロブスカイト酸化物LaMn 7O 12の結晶構造. 5)(Crystalstructures of simple and quadruple perovskite oxides.)(a)バルク結晶構造と(b)構造緩和表面における吸着サイトを示す.図2 AMnO 3とAMn 7O 12(A=Ca,La)における酸素発生・還元触媒活性の比較. 4)(Comparison of oxygen evolution/reduction reaction catalysis for AMnO 3 and AMn 7O 12(A=Ca, La).)76日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)