ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

DNA結合活性をもつプロテアーゼ様タンパク質の構造解析図2RadA-LonCのDNA結合部位の働き.(Functions ofthe DNA-binding sites of RadA-LonC.)図1 RadA-LonCのサブユニット構造と6量体構造.(Subunit and hexameric structures of RadA-LonC.)この可能性を検証するため,まずRadA(423残基)のさまざまなドメイン欠失変異体を作製し,それらのDNA結合活性を調べたところ,LonCを含む変異体のみがDNA結合活性を示した.さらに上記の塩基性残基を無電荷のAlaに置換した部位特異的変異体では,DNA結合活性が低下した.特に,R286A/R385A二重変異体およびR305A/R314A/K345A三重変異体は,単一変異体に比べてDNA結合活性が大きく低下した.この結果から,RadA-LonC内の正電荷を帯びた2つの領域がDNA結合部位として機能することがわかった.同じドメインに分類されているにもかかわらず,プロテアーゼ型LonCがDNA結合活性をもたないのに対して,非プロテアーゼ型のRadA-LonCがDNA結合活性をもつというのは,予想したこととはいえ,やはり驚きであった.さらに,これらのDNA結合部位がRadAの機能にとって必要かどうかを検証した.radA遺伝子を欠損させた菌株は,DNA傷害に対する感受性が増加して生存率が低下するが,野生型のradA遺伝子を導入すると生存率が回復する.しかし,上記の二重変異体または三重変異体を導入しても,radA遺伝子欠損株のDNA傷害に対する感受性は変わらなかった.このことから,2つのDNA結合部位はともにRadAによるDNA修復に必須であることが明らかになった.一方で,この2つのDNA結合部位には機能的な違いも見られた.R305A/R314A/K345A変異体は,野生型と同様に,DNAによってATPアーゼ活性が活性化された.しかし,R286A/R385A変異体はDNAの有無にかかわらず,活性化された野生型と同程度のATPアーゼ活性を示した.このことから,DNA非存在下ではLonCがサブユニット界面を介してATPアーゼドメインの活性を抑制しており(図2中央),リング内壁にDNAが結合してもATPアーゼ活性は抑制されたままだが(図2右),サブユニット界面の凹みにDNAが結合すると,抑制が解除されて活性が促進されることが示唆された(図2左).この結果は,同じく非プロテアーゼ型LonCをもつ日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)図3 LonCファミリーの分子系統樹.(Molecular phylogenetictree of LonC family.)ComMの機能に関する手がかりも与えてくれる.RadA-LonCの2箇所のDNA結合部位のうち,リングの内壁の塩基性残基群はComM-LonCの予測構造にも保存されており,非プロテアーゼ型LonCに共通の特徴と考えられた.LonCの分子系統樹において,RadAとComMのほうがLonプロテアーゼに比べて互いに似ていることもふまえると(図3),ComM-LonCもDNA結合活性をもつと予想される.このことは,LonCファミリーがプロテアーゼ型とDNA結合型に分類できることを示している.実はLonCファミリーはリボソームタンパク質などのさまざまな核酸結合タンパク質を含むスーパーファミリーに属している.4)このことは,LonCの祖先が核酸に結合する働きを有していた可能性を示唆している.では,LonプロテアーゼのLonCはどのようにしてタンパク質分解活性を獲得するようになったのか.タンパク質ドメインの進化については,まだ多くの謎が残されている.文献1)M. Inoue, et al.: J. Biol. Chem. 292, 9801(2017).2)M. Sjodt, et al.: Nature 556, 118(2018).3)J. Yang, et al.: Nat. Methods 12, 7(2015).4)I. Sillitoe, et al.: Nucleic Acids Res. 43, D376(2015).75