ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

リチウムに富む含水準輝石族新鉱物「村上石」の結晶化学Si2 NaO4CaM2Si3M3座標の変化.(Variation of cation positions at M3 sitewith Na+?Li+substitution in murakamiite structure.)位数を好む傾向がある.4)Liに占有される配位席の特徴として,LiO 4四面体は隣接する配位多面体と稜共有して大きく変形することが多く,6配位の場合は同一配位多面体内のLi?O結合距離の差から(4+2)配位と表されることがある.ペクトライトグループに代表される含水準輝石族鉱物で典型的にみられるNa+?Li+置換は電荷的には一般的な置換関係のようだが,大きな配位多面体に位置するNa+をLi+が置換することは実際には比較的まれである.4)X線単結晶構造解析の結果,5)村上石の格子定数はa=7.9098(2)A,b=7.0320(2)A,c=6.9863(2)A,α=90.596(2)°,β=95.589(2)°,γ=102.767(2)°,V=376.98(2)A 3であった.各配位席で決定された元素分布に基づく構造式はM3(Li 0.587(2)Na 0.413)M 1Σ1.000 Ca M2 CaSi 3O 8(OH)であり,事前に決定された化学分析値とほぼ一致し,村上石がM3席の約60%をLiに占有されるLi卓越種であることが確定した.また構造解析の過程で得られた電子密度分布は村上石のM3席の陽イオンが2つの異なる原子位置をもつことを示し,解析の結果,それぞれの電子密度ピークがLiとNaの原子位置に相当することが明らかになった.図3に示すようにNaとLiの原子位置の変化は顕著で,LiがM3席を占める場合,その位置がSi1O 4四面体方向にシフトすることがわかる.これはNa+よりも有効イオン半径の小さいLi+が(VI Na+=1.02 A,VI Li+=0.76 A 6)),周辺の酸素と結合を維持できる位置にシフトするためである.すなわちこのイオン半径の違いが,M3席の陽イオンと配位する酸素原子の結合に変化をもたらす.その結果,Naに占有されるM3席が8配位であるのに対し,Liによって占有される場合にはその配位数は4まで減少する.含水準輝石族鉱物は非常に強い水素結合(O…O=約2.5 A)をもつことで知られている.7)水素を除いた村上石の構造解析結果でみられる差フーリエピークやCharge-日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)LiSi1O3図3村上石におけるNa+?Li+置換に伴うM3席の原子CaM1Distribution法8)による見積りはいずれもO3,O4席の酸素の間に水素が存在することを明示し,このことは村上石のO3…O4距離(約2.48 A)が含水準輝石にみられる強い水素結合の典型的な距離であることからも支持される.さらに差フーリエピークに基づき決定された水素位置から,これまでNa卓越種であるペクトライトがOH基を形成する場合,基本的にO3がドナー,O4がアクセプターであるとされてきたが,Li卓越種である村上石ではO4がドナー,O3がアクセプターの役割をより優先的に担い,その関係が逆転することが明らかとなった.これはNa+?Li+置換に伴うM3席の陽イオンの原子座標の変化によってO3,O4への正電荷の寄与が変化したことによる.この結果は,M3席における陽イオン置換が水素結合を変化させる重要な要因であることを示す.Na+?Li+置換に伴う原子座標の変化に起因する水素結合システムへの影響は,Si 5O 14(OH)鎖をもつ南部石などのほかの含水準輝石族鉱物からも筆者によって見出されており,3)本現象はこの鉱物群において普遍的であると結論される.また前述したように本グループは系統的な組成変化をもつことから,MarshallsussmaniteのLi置換体であるLiCaMnSi 3O 8(OH)組成をもつ鉱物も将来的に発見されると推定され(図2),その結晶化学的特徴にも興味がもたれるが,マンガンに乏しい岩城島のアルビタイトからは見つからないだろう.これまで岩城島からは1976年に「杉石」(KNa 2Fe 3+2Li 3Si 12O 30),9)1983年に「片山石」[KLi 3Ca 7Ti 2Si 12O 36(OH)2]10)という高リチウム含有量で特徴づけられる希産鉱物が世界で初めて発見されており,本地域は世界有数のリチウム濃集帯といえる.今回発見された村上石や上述の含リチウム鉱物の結晶化学的研究は,岩城島のアルビタイトにおけるリチウムの挙動の解明に大きく貢献したが,リチウムの供給源や濃集プロセスはいまだ謎が多く,地球科学分野ではそのメカニズム解明に大きな期待が寄せられている.文献1)T. Imaoka, M. Nagashima, T. Kano, J. -I. Kimura, Q. Chang and C.Fukuda: Eur. J. Miner. 29, 1045(2017).2)K. Momma and F. Izumi: J. Appl. Crystallogr. 44, 1272(2011).3)M. Nagashima, T. Armbruster, U. Kolitsch and T. Pettke: Am. Miner.99, 1462(2014).4)M. Wenger and T. Armbruster: Eur. J. Miner. 3, 387(1991).5)M.Nagashima,T.Imaoka,C.FukudaandT.Pettke:Eur.J.Miner.30,(2018)(in press).6)R. D. Shannon: Acta Cryst. A32, 751(1976).7)例えば,M. Nagashima and T. Armbruster: Eur. J. Miner. 22, 393(2010).8)例えば,M. Nespolo: Acta Crystallogr. B72, 51(2016).9)N. Murakami, T. Kato, Y. Miura and F. Hirowatari: Miner. J. 8, 110(1976).10)N. Murakami, T. Kato and F. Hirowatari: Miner. J. 11, 261(1983).73