ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

日本結晶学会誌60,72-73(2018)最近の研究動向リチウムに富む含水準輝石族新鉱物「村上石」の結晶化学山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野永嶌真理子Mariko NAGASHIMA: Crystal Chemistry of a New Li-analogue of Hydrous Pyroxenoid,“murakamiite”2016年にリチウムにきわめて富む新鉱物が愛媛県岩城島のアルビタイト(曹長岩)から発見され,岩石学者である故村上允英(のぶひで)博士(1923~1994)にちなみ「村上石(Murakamiite)」と命名された.1)村上石の理想式はLiCa 2Si 3O 8(OH)と表される.本鉱物は含水準輝石族に属し,その中でも3個のSiO 4四面体を周期とするねじれた鎖が骨格を作るペクトライトグループに属する(図1).過去の含水準輝石族鉱物の系統的な研究によって,ペクトライト[NaCa 2Si 3O 8(OH):1828年に有効鉱物種認定]のナトリウムをリチウムが置き換えた種の存在が予測されていたが,長年発見されてこなかった.「村上石」はまさにこのミッシングピースを埋める待望の種であり,予測されていた種の自然界における存在を実証した点からも高く評価されている.新鉱物は38ヵ国の鉱物学関連学会で組織される国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物・命名・分類委員会による厳正な審査を経て承認される.申請には対象となる鉱物のX線回折データが必要だが,一般に天然鉱物は複雑な化学組成をもつことが多い上に,鉱物内部の化学組成は均質とは限らず,形成時の環境変化を反映して数~数十マイクロメートルのスケールで大きく変化することがある.そのため,X線回折データ測定の前に,研究対象となる鉱物の内部組織の観察,およびそれに基づく正確な化学組成の決定が不可欠である.実際,岩城島産のペクトライトグループ鉱物ではLiおよびNa含有量が連続的に変化し,その鉱物内部では組成が村上石(Li>Na)に対応する領域とともにペクトライト(Na>Li)に対応する領域が存在する.鉱物種の決定のためには各配位席における構成元素の存在量を決定する必要があるが,新鉱物としてLi卓越種である村上石が承認されるためには,内部組織観察に基づきLiが卓越する領域を選定し,さらにX線回折実験でNaよりもLiが卓越することを実証することが不可欠であった.図2に示すように,ペクトライトグループに属する鉱物種はNa?Li置換だけではなく,Ca?Mn 2+置換を伴う.このような系統的組成変化は,5個のSiO 4四面体を周期とする単鎖構造をもつ南部石-ナトリウム南部石-マースター石-リチウムマースター石でもみられる.3)ペクトライトグループの構造式はM3M1M2Si 3O 8(OH)と表され(Z=2,空間群P1 _),6配位のM1,M2席をCa,Mn 2+が占有し,M3席にNa,Liが分布する.Na卓越種であるペクトライトのM3席は8配位である.しかし,Liが卓越する場合,その配位数は異なる.天然の鉱物におけるリチウムイオンの配位数は3から8まで変化することが知られているが,主に4配位,次いで6配位と比較的小さな配1.0 Na occcpancy at M3 0.02.00.0PectoliteMurakamiiteNaCa 2Si 3O 8(OH) LiCa 2Si 3O 8(OH)a図1cM2M1M2M1Si3Si3M3M3Si2NaLiSi1Si2Si1bM2M1M2M1CaCa村上石の結晶構造図(VESTA3 2)を使用).(Crystalstructure of murakamiite drawn with VESTA3. 2))図2Ca at M1 and M21.0MarshallsussmaniteNaCaMnSi 3O 8(OH)M1: Ca>Mn, M2: Mn>Ca1.00.0SeranditeNaMn 2Si 3O 8(OH)TanohataiteLiMn 2Si 3O 8(OH)2.00.0Li occupancy at M31.0Mn at M1 and M2ペクトライトグループに属する鉱物種と理想化学式の関係.(Mineral species of pectolite-group mineralsand their ideal chemical formulae.)72日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)