ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

日本結晶学会誌59,188(2017)「第6回対称性・群論トレーニングコース」に参加して大阪大学基礎工学研究科藤井宏昌高エネルギー加速器研究機構(KEK)にて2017年7月31日~8月4日に開催された第6回対称性・群論トレーニングコースに参加しました.参加者は年齢・分野・職種不問であったので,まったくの初学者でも理解できるように構成された講義でした.私は単結晶構造解析の経験が一度だけありますが,本コースに参加して非常に満足しています.大阪から前日入りした私は,講義初日前日に催されたKEKつくばキャンパス見学ツアーに参加しました.ツアーには9名が参加し,素粒子実験施設「KEKB筑波実験棟」と放射線利用実験施設「Photon Factory」を見学しました.筑波実験棟では実験ホール内を歩き,設置調整中の「BelleⅡ」検出器を間近で見ることができました.高さ10 mの巨大な検出器は,物性物理を専門とする私が知っている検出器(10~20 cm程度)からかけ離れており,衝突実験がもつスケールの大きさに高揚しました.Photon Factoryでは,タンパク質の構造解析や小角散乱のビームラインを見学し,試料取替ロボットや一辺50 cm程の二次元検出器など,見慣れない装置をハッチ内で詳しく見ることができたのは興味深い経験でした.5日間にわたる9:00~18:30の講義,および20:30からの質問会はフランス国立ロレーヌ大学のネスポロマッシモ先生がお一人で担当されました.マッシモ先生は,日本語は第四言語なので適切でない場合があるかもしれないとおっしゃっていましたが,実際には流暢で正確な日本語で講義されていたのが印象的でした.全体を通して参加型の講義であり,説明の途中で講師が聴衆全体に問いかけることや,逆に参加者が講師に質問することが頻繁にありました.その反応から聴衆の理解度を確認して説明時間が調整されていたため,講義についていけなくなることはありませんでした.演習問題の量が多く,理解を深める時間が長くとられていたことも特徴的でした.内容は,群,部分群などの抽象代数学から始まり,対称操作と格子系の分類や点群と空間群を直観的に理解することなどが前半の主な内容でした.後半では,格子の軸変換に伴う対称操作の行列変換や,前半に学んだ群・部分群の関係を使って相転移前後の対称性を類推する方法など,発展的な内容となっていました.その中でも,格子系,晶系,結晶族といった紛らわしい用語の厳密な定義や,日本語の教科書で頻繁に見られる間講義風景違った説明の訂正など,興味深い話題がたくさん盛り込まれていました.この講義が初学者から専門の方まで広く人気である理由がわかったような気がしました.1日の講義が終わると宿舎で講義の復習と出題された宿題に取り組みました.疑問があれば質問会に行き,先生に質問して納得するまで教えていただけたので,最後まで落ちこぼれることなく講義を楽しめたように思います.質問会では,ほかの方の質問を一緒に聞いていられることも面白さの1つでした.初日の質問会では,対称性はmonoclinicだが格子定数がorthorhombicのように偶然90度になることはあるのかという話題で盛り上がりました.私には到底思いつかない質問だったので興味深いものでした.この手の込み入った質問に対してもマッシモ先生の回答は明快で,当然ありうるとのことでした.初日の講義終了後には懇親会が開かれ,マッシモ先生,KEKの世話人の方々,参加者が食事を取りながら交流しました.初対面の方々との交流は講習会や研究会の隠れた醍醐味でもありますが,本講習会は特にさまざまな分野の方が参加されていたのでみなさん話が尽きないように見えました.懇親会のちょうど半分の時間が経った頃,全員が自己紹介する時間を設けられ,研究内容や趣味を紹介しました.趣味がバレーボールであることを紹介すると,KEKの河田先生からお誘いをいただき翌日の昼休みにバレーボール愛好会の方々とバレーボールを楽しむことができたのは嬉しい誤算でした.最後にマッシモ先生,世話人の方々の熱意と厚意のおかげで充実した5日間を過ごすことができたことを感謝致します.188日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)