ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

中村顕,平林佳,田之倉優図4開発装置外観.(Picture and schematic illustration of the developed system.)化プレートを設置する空間は,乾燥空気発生装置・乾燥空気冷却装置・温度センサー・ヒーター・温度コントローラーで構成される温度調節装置により,4~20℃(±0.1℃)の範囲で任意の温度に設定可能である.2.3観察系本システムでは,擬似的微小重力環境における結晶成長のその場観察を行うため,超伝導マグネットの室温ボア上部からペリスコープを挿入している(図4,特許第5657326号).これにより,ドーナツ型の結晶化プレートの内周壁面を通して,結晶化ドロップウェルの液滴を観察する.分解能は20μm以上,視野は約1.6 mm×約1.2 mmであり,液滴のほぼ全体を観察することができる.ペリスコープは強磁場中においても上下可動・水平方向の360°回転・焦点調節が可能である.したがって,結晶観察時に結晶化プレートを動かす必要はなく,結晶化が進行中の液滴に対する外部磁場条件を一定に保持することができる.また,制御ソフトウェア上で観察する位置情報を登録することで,指定した位置の液滴について,任意の時間間隔での自動撮影にも対応している.したがって,結晶成長の経時変化を追跡することが可能であり,いつ・どこから・どのようにして結晶が析出し成長するのか,どのタイミングで結晶成長が止まるのかなどさまざまな情報を知ることができる.3.擬似的微小重力環境を利用したタンパク質結晶化3.1実験方法上記のような構成で開発したシステムを使用し,複数のタンパク質試料について結晶化実験を行った.このとき同時に,一般的に使用される恒温インキュベータ内で,磁場・磁気力以外は同じ条件となる対照実験も実施した.本稿では,ヒラタクサビライシ由来の蛍光タンパク質Kusabira-Orange(単量体変異型;mKO)および高度好熱菌由来の亜鉛プロテアーゼ(ZPαβ)を用いた場合の実験結果を紹介する.mKO,ZPαβの精製タンパク質試料について,濃度を10 mg/mlに調整した後,結晶化プレート上の結晶化ドロップウェルにて沈殿剤溶液と1μLずつ等量混合した.リザーバーウェルには25μLの沈殿剤溶液を入れ,結晶化プレートをシールで密閉した後,20℃で静置させた.擬似的微小重力環境では,結晶化開始から1時間後より50時間後まで10分間隔で結晶化ドロップウェルの様子を経時的に記録した.その後,システム内から結晶化プレートを取り出して対照実験の結晶化プレートと同様に顕微鏡下で生成した結晶を観察し,得られた結晶について,大きさ,形状などの外観比較を行った.それぞれの結晶は,実験室系X線あるいは高エネルギー加速器研究機構Photon Factoryにおける放射光X線を用いた回折実験に供し,回折強度データを取得して解析結果を比較した.回折強度データの処理にはXDS 18)およびSCALA 19)を使用し,最外殻R mergeが40%以下となるように分解能範囲を設定した.結晶構造についてはPhaser 20)による分子置換法によって初期位相を決定し,COOT 21)およびPhenix 22)によって精密化した.3.2結晶化実験結果蛍光タンパク質mKOについては,結晶のサイズに大きな違いは見られなかったが,強磁場環境である擬似的微小重力条件下では,三角錐状の結晶の1つの頂点が磁場方向と一致する磁場配向が確認された(図5a).X線回折実験の結果から,三方晶系の空間群P3 121に属するmKO結晶のc軸が磁場の向きと平行となっていることがわかった.また,構造解析の結果,mKOのβバレル構造中のペプチド結合を含む面が,結晶のc軸を含む面と平行であることがわかった.タンパク質分子による結晶が磁場配向を示す要因の1つとして,ペプチド結合面に184日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)