ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

日本結晶学会誌59,182-187(2017)最近の研究から擬似的微小重力環境の設計と結晶化東京大学大学院農学生命科学研究科,学習院大学理学部中村顕東京大学大学院農学生命科学研究科平林佳,田之倉優Akira NAKAMURA, Kei HIRABAYASHI and Masaru TANOKURA: Development ofQuasi-Microgravity Environment for Protein CrystallizationMicrogravity environment has been used to obtain high-quality crystals. Strong magnetic forceproduced by a superconducting magnet can cancel out the gravity force, enabling construction ofquasi-microgravity environment on earth. We developed a protein crystallization system which iscomposed of a superconducting magnet for the magnetic force-based quasi-microgravity and aninverted periscope for in situ observation of crystal growth. Crystals grown in the system showedimproved and homogeneous quality.1.タンパク質結晶化における微小重力の利用1.1結晶品質の改善法結晶構造解析により研究対象のタンパク質の三次元構造を高精度に決定するためには,高品質の結晶を準備する必要がある.結晶品質を改善させるためには,試料の純度を上げたり,沈殿剤の組成を最適化したり,標的タンパク質の立体構造均一化を促進する目的でリガンドなどの相互作用分子を添加したりするのが一般的である.その他の品質改善方法としては,例えば,表面エントロ1ピー減少法)を適用するなどしてアミノ酸置換によるタンパク質自身の改変を通じた結晶内分子パッキングへのアプローチ,あるいは結晶化を行う場として対流抑2制環境である微小重力空間)やハイドロゲル3)などを利用する結晶成長へのアプローチなどが知られている.また,結晶生成後の脱水操作や結晶凍結時にアニーリングを行うことによって回折分解能を向上させることが可能な場合もある.4)1.2微小重力環境での結晶化理想的な結晶成長を妨げる要因の1つに,対流の影響がある.温度一定の溶液中に溶質の濃度差が生じると自然対流が発生し,溶液中の物質移動が多くなることで,結晶成長を乱すことにつながる.自然対流は重力に起因する現象であることから,重力の影響が小さい環境で結晶化を行うことで,得られる結晶の品質を高められると期待される.その一例が宇宙空間(スペースシャトル,国際宇宙ステーション)での結晶成長実験である.結晶化法として蒸気拡散法を用いる場合,気液界面が存在するため,表面張力の変化によるマランゴニ対流は避けられないが,無重力あるいは微小重力環境の利用によって自然対流を低減させることで,結晶成長に対して一定の効果があると期待されている.すなわち,このような重力低減条件下の結晶化溶液中では,主に自由拡散によって溶液中の濃度勾配が解消され,結晶核の周囲に分子の欠乏層を形成させることにより,不純物の取り込みや間違った配向での分子の取り込みを抑制し,結晶のクラスター化を防ぎながら,理想に近い結晶成長を促すことができると考えられている.5)1.3磁場を利用した微小重力環境タンパク質結晶化に磁場を利用した報告は多く,6)核形成の抑制に起因すると考えられる生成結晶数の減少, 7)磁場強度に依存した結晶の磁場配向, 7)-9)結晶の緩やかな成長, 10)11)-15結晶の品質向上)といった効果があることが知られている.われわれは特に,磁気力による微小重力環境を利用してタンパク質結晶化実験を行っている.磁気力とは,磁場強度と磁場勾配の積に比例した力であり,単位質量当たりの磁気力(z軸成分)は下記式(1)で表される.F m=(1/μ0)χmB z(dB z/dz)(1)ここで,μ0は真空の透磁率,χmは質量磁化率,B zは磁束密度(z軸成分),dB z/dzはz軸方向の磁場勾配である.例えば,水の質量磁化率は-9.051×10-9 m 3 kg-1であるため,磁場と磁場勾配の積B z(dB z/dz)が約-1360 T 2 m-1となる条件において,磁気力によって重力が相殺され,水滴は宙に浮く(磁気浮揚する)ことになる(図1).これまでに,磁気力を利用した重力低減条件下でのタンパク質結晶化実験の報告はあるが, 14)-16)結晶が析出したかどうかを確認するために,実験空間である超伝導マグネットの室温ボアから結晶化プレートなどを取り出して観察する必要があった.また,結晶が得られていない場合は,再び装置内へと結晶化プレートなどを戻す182日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)