ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

バクテリアにおけるヘムの獲得と輸送の構造生物学図7ヘム分解酵素の立体構造と反応生成物.(Structuresof the heme-degrading enzymes.)(a)ジフテリア菌のヘムオキシゲナーゼHmuO.(b)黄色ブドウ球菌のIsdG.(c)結核菌のMhuD.(d)大腸菌O157のChuS.図8ヘムセンサータンパク質HrtRの結晶構造.(Structuresof the heme sensor HrtR.)(a)乳酸菌における細胞内ヘム濃度の制御メカニズム.(b)ヘムの有無による立体構造の違い.35)た.22)-24)HOの反応に関する詳細な解説については他稿に譲る.25)近年になり,HOだけでなく,病原性バクテリアではほかのファミリーの酵素もヘムを分解することが報告されている.例えば,図4で示した黄色ブドウ球菌のIsdタンパク質群の1つであるIsdGやIsdIである(図7b).26)ただし,ヘムの代謝産物はスタフィロビリンと呼ばれる黄色の別の化合物である.また,IsdG型の酵素として結核菌由来のMhuDがあり(図7c),鉄を取り出してマイコビリンという紫色の色素を生成する.これらの酵素の構造解析から,結合したヘムを異常に歪めることが明らかになった.立体的な制限によってHO型のCOを生成する反応を抑え,その代わりにホルムアルデヒド(HCHO)を生成する.27)MhuDでは1つの酵素で段階的にモノオキシゲナーゼ反応とジオキシゲナーゼ反応の両方を触媒するという奇妙な酵素である.28)これらの反応の多様性と生成産物の生理的な意義も注目されている.もう1つ,別のファミリーのタンパク質では,病原性大腸菌O157がもつChuSもヘムを分解することが報告されている(図7d).29),30)しかし,ChuSのオーソログであるPhuS(緑膿菌)やShuS(赤痢菌)の生理機能はヘムの分解ではなく,内膜のヘムトランスポーターによって細胞質へ運ばれてきたヘムを受け取ってからHOへ渡すことだという主張もある.31)-34)日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)5.ヘムセンサー乳酸菌(Lactococcus lactis)はヘムの生合成の酵素が欠損しているため,外部からヘムを取り込んで生体維持に利用することが知られている.この乳酸菌の細胞内には遊離のヘムを感知するヘムセンサータンパク質HrtRが存在し,ヘム濃度を一定に保つシステムのスイッチとして働いている.転写調節因子として機能するHrtRは,ヘムが結合していないときには,ヘム排出トランスポーターをコードする遺伝子オペロンの上流に結合して転写を抑制する.一方,ヘム濃度が高くなってHrtRがヘムを結合すると,ヘム排出トランスポーター遺伝子の転写が活性化し,過剰量のヘムが細胞内にヘムが蓄積することを防いでいる.ヘムの結合によるHrtRの構造変化と遺伝子発現調節のメカニズムが,DNA結合型およびヘム結合35型HrtRの構造解析)から明らかになっている(図8a).モノマー当たり9本のヘリックスから構成されるHrtRは2量体構造をとる.N末端側の3つのヘリックスがDNA結合ドメインで,のこりの6つのヘリックスがヘム結合ドメインを形成する.HrtRはほかの細菌にも広く分布するTetRファミリータンパク質に分類され,TetRに類似した全体構造をしているが,ヘム結合部位は独自の構造をしている.ヘム非結合型ではヘリックスα4の一部がほどけた状態にあるが(図8b),ヘム結合型の構造では2つ171