ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

ページ
38/72

このページは 日本結晶学会誌Vol59No4 の電子ブックに掲載されている38ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No4

杉本宏図3インフルエンザ菌のHxuAタンパク質によるヘムの獲得.(Heme acquisition by HxuA.)(a)ほ乳類の血清に含まれるヘモペキシンの構造.(b)HxuAとヘモペキシンのC-ドメインの複合体構造.9)HxuAから伸びているM-ループがヘム結合部位と相互作用している.(c)ヘモペキシンの全体構造を複合体中のヘモペキシンのC-ドメインに重ね合わせると,N-ドメインがHxuAに衝突してしまうことから,複合体形成によって誘導されるドメイン構造の変化もヘムを奪う際に重要であることが示唆される.の形成によってヘモペキシンの2つのドメインの相対配置を変えることができるのであろう.その結果,ドメインの間に結合していたヘムの親和性を大きく低下させていると推測される.HxuAが前述したHasA型のヘモフォアとは異なる特徴として,HxuA自身にはヘムとの親和性がない点が挙げられる.したがって,HxuAの場合には,ヘムの渡し先である外膜のレセプター(HxuC)10)とHxuA-ヘモペキシンがさらに複合体を形成した状態でヘムの移動が起こると考えられる.2.3 NEAT型ヘモフォア黄色ブドウ球菌は日和見感染性のグラム陽性細菌であるが,抗生物質に対して耐性を獲得しやすい特性をもっていることから医学的な脅威となっている.ヒトの血中ヘモグロビンからヘムを奪い,細胞膜内へと輸送するIsdと呼ばれる黄色ブドウ球菌がもつタンパク質群についての研究が盛んに行われてきた.このIsdはA~Iの9つのタンパク質からなる(図4).11)-15)それらのうちIsdHは,NEAr iron Transporter(NEAT)と呼ばれるβサンド図4病原性バクテリア(グラム陽性菌)におけるヘム獲得.(Heme transport system in Gram-positive bacteria.)黄色ブドウ球菌の例を示す.ペプチドグリカンからなる細胞壁に係留されたIsdHがヘムをヘモグロビンから奪う.ヘムはさらにIsdH→IsdA→IsdCへとリレーされていく.これら3つのタンパク質はNEATと呼ばれるドメインをもつ.IsdEとABCトランスポーターによって細胞質へ運ばれたヘムは,IsdGあるいはIsdIが分解して鉄が取り出される.イッチフォールドを形成する機能ドメインを3つ有している.NEAT1とNEAT2ドメインはヘモグロビンとの結合を促進し,NEAT3はヘムと強く結合する.IsdHによって剥がしとられたヘムはその後IsdAへと受け渡される(図4).近年にIsdHとヘモグロビンとの複合体の構造が報告され,11),16)ヘムの奪取に関する構造的な知見が明らかになった.図5aに示すヘモグロビン4量体(α2β2)と11IsdHのNEAT2~NEAT3領域の複合体)では,1分子のIsdHがヘモグロビンのαあるいはβサブユニットにそれぞれ1分子ずつ結合している.つまり合計4つのIsdHがヘモグロビン4量体に結合している.IsdHの2つのNEATドメインの間には3本のヘリックスからなるリンカードメインがあるため,ダンベル型の構造をしている.特徴的なのは,NEAT2はヘモグロビンとの相互作用にかかわるが,ヘモグロビン内のヘム結合部位から離れたところに位置している.それに対してNEAT3はヘムを奪うのに適した位置にある.つまり,ヘムの移動先のNEAT3で軸配位子となるTyr642がちょうど接近している(図5b).結晶化ではこのTyr642をAlaに変異させて移動の活性のない状態にしているため,ヘムはヘモグロビン内にほぼ留まっている.このような複合体の構造からは,NEAT2~リンカー~NEAT3という3つのドメイン構造による物理的な配置がヘモグロビンからのヘムの移動に必須の168日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)