ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4
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日本結晶学会誌Vol59No4
平田秋彦,小原真司,今井英人,陳明偉Total energy / Hartree図10密度汎関数法による各構造モデルのエネルギー計算. 5)(Energy calculation for the three models.)図9S(Q)oQ / A -1ExperimentSimulationRMCで作製したアモルファスSiOの均一モデルとS(Q)のフィッティング結果. 5)(Homogeneousstructure model made with RMC.)Si-4OのほかにSi-(3Si,O),Si-(2Si,2O),Si-(Si,3O)のような亜酸化物も合計で20%程度存在することが明らかとなった.また,Si的領域とSiO 2的領域はこれら亜酸化物の配位構造によってなめらかに繋がっている様子が明らかとなった.RMC法を使ったアモルファス構造のモデリングで困難な点は,同様なS(Q)を示す多数の構造が存在し得ることである.2)今回のケースのように不均一性が内在する場合には,構造モデリングはさらに難しくなる.そこで,今回取り扱ったアモルファスSiOにおいて,上述した不均一構造モデルだけでなく,Si-(2Si,2O)のネットワークで作られる均一構造モデルによってもX線散乱実験のS(Q)を再現できるかを試してみた.均一モデルは原子をランダムに配置したのち,配位数の拘束条件をかけたRMC計算によってS(Q)にフィッティングしたものである.図9に示すように,この均一モデルによっても実験のS(Q)をほぼ再現することは可能であった.つまりまったく違う2つの構造モデル(均一および不均一モデル)がほぼ同一のS(Q)をもつことが示された.アモルファス物質の解析で放射光X線を使ってS(Q)を精密に求めるのは言うまでもなく大事であるが,それに加えてTEMなどを使った局所の情報も同時に重要であることが本物質では浮き彫りになった.今回のSiOの不均一構造は極端な例ではあるが,アモルファス構造は大なり小なり不均一性を含むはずであり,局所から得られた実験データを注意深く解析してX線などの大域のS(Q)と突き合わせる必要があるだろう.最後に,得られた構造モデルの全エネルギーを調べた.図10には最終的に得られた不均一モデル(MD+RMC),RMCで修正される前の不均一モデル(MDのみ),および均一モデルに対して計算した全エネルギー値を示す.最終構造のほうがRMC修正前の構造に比べて低エネルギーになっており,S(Q)にフィットさせることにより安定な構造が得られていることがわかる.また,均一構造は2つの不均一構造に比べてエネルギーがかなり高く,界面に亜酸化物構造を多く含むような不均一構造をとるほうが,エネルギー的に利得があることが明らかとなった.本系では従来から(2SiO→Si+SiO 2)の不均化反応が進むと言われているが,アモルファスSiOの分解は常にナノスケールで留まり,500℃程度まで加熱してようやくSiナノ結晶が形成される程度である.今回モデリングを行ったアモルファスSiOは単に分解が進んでしまった混合物というよりは,原子スケールで多用な配位構造を特定の割合で含むことにより安定化される固有の準安定構造であるように見える.5.おわりに現在,多くの実用材料にアモルファス物質が利用されているが,必ずしも原子レベルで均一なわけではなく,そのような不均一性が物性・特性と関係している場合も多いと考えられる.本稿では不均一アモルファス構造のモデリング例として,近年二次電池用負極材としても注目されているアモルファスSiOを紹介した.アモルファスSiOは固有の構造をもつか,あるいは不均化したSi+SiO 2混合物であるか,がこれまで議論されてきており,定量的な構造モデリングが待たれていた.われわれは放射光X線散乱法とオングストロームビーム電子回折法を相補利用して,大域構造情報と局所構造情報の両方をモデリングに反映させた.その結果,アモルファスのSiおよ164日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)