ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

ページ
32/72

このページは 日本結晶学会誌Vol59No4 の電子ブックに掲載されている32ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No4

平田秋彦,小原真司,今井英人,陳明偉o(a) 2.14 A -1o3.84 A -1oo(d) 2.20 A -1 3.62 A -1(g)Si-L 2,3 Si-L 12nmSiSiO 2(b)(e)(h)o1.83 A -1o1.80 A -1(c)o1.56 A -1(f)o1.52 A -1(i)図4アモルファスSiOの局所領域から得られたEELSプロファイル.5)(EELS profiles obtained from localregions in amorphous SiO.)右に示すHAADF-STEM像中の明・暗領域およびその界面から測定を行った.トラストが見られるため,解釈には注意が必要である.HAADF-STEM像の明暗のコントラストの起源を調べるため,まず,ナノ電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy Loss Spectroscopy)を用いてこれらの領域のSiの電子状態を調べた.図4はHAADF-STEM像の明・暗領域およびその界面から得たSi LエッジのEELSプロファイルである.SiおよびSiO 2標準試料から取得したものも比較のために示している.明および暗領域から得たEELSプロファイルの形状はSiおよびSiO 2から得たそれと類似していることがわかった.この結果から,HAADF-STEM像のコントラストの起源が単なる厚さや密度の違いでないことが示された.4.3オングストロームビーム電子回折測定アモルファスSiOの局所構造の特徴を調べるため,およそ0.8 nm径の電子線を用いて明・暗の領域およびそれらの界面からオングストロームビーム電子回折パターンを撮影した.それぞれの領域から得られた特徴的な電子回折パターンを図5に示す.アモルファスの局所構造から得られる回折パターンの強度は方位に強く依存するため,実際には非常に多くのパターンを撮影し,その中から特徴的なものを選び出している.結晶の場合で言えば,特徴的なパターンを得るために晶帯軸入射へ電子線の方向を調整する作業と同様である.ここに示している3枚のパターンはSTEMの走査機能を利用して,ビームを制御することにより連続した明・暗領域とその間の界面から撮影したものである.得られたパターンの解釈のため,まず分子動力学(MD:Molecular Dynamics)シミュレーションを用いてアモルファスSiおよびSiO 2の構造モデルを作製した.アモルファスSiおよびSiO 2の構造モデルから抜き出した局所構造のさまざまな方位からの回折パターンを調べたところ,明・暗領域から得図5オングストロームビーム電子回折法を用いてアモルファスSiOの局所領域から得られた電子回折パターンとそのシミュレーション.5)(Angstrombeamelectron diffraction patterns and correspondingsimulatedpatternsobtainedfromlocalregionsinamorphous SiO.)(a)~(c)HAADF-STEM像の明領域,界面,暗領域から得られた電子回折パターン.(d)~(f)Si,界面(亜酸化Si),およびSiO 2の3つの構造モデル((g)~(i))から計算で得られた電子回折パターン.計算で得られたパターンは実験の特徴をよく再現している.られたパターンをそれぞれよい一致を示した.また,界面からのパターンも後述する最終的に得られた不均一構造モデルにおけるSiとSiO 2の界面から得られたもので説明できた.これらの直接的観察から,アモルファスSiO中にはSiおよびSiO 2的なナノ領域が存在し,界面には特徴的な構造があることが示唆された.SiはSiO 2と比較してアモルファスになりにくい物質であるため,Si的なナノ領域が結晶化している可能性もある.そこで,Siが結晶であるかどうかの判別法を簡単に議論したい.図6にはSiの結晶およびアモルファスの構造図と対応する電子回折パターンを示す.結晶は[111]方向からの入射で,パターンには結晶の対称性を反映した6回対称のスポットの配置が見られる.一方,アモルファス局所構造でも方位を調整すると結晶の[111]入射パターンと同様なものが得られる.しかし,完全な6回対称からは歪んでおり,スポット強度も結晶と比べかなり弱い.それに加え,アモルファスの場合,6回対称の内側の透過波に近い部分(FSDP位置)に強いスポットが現れる.これらのことから,ナノ領域が結晶SiであるかアモルファスSiであるかを判別することが可能であり,今回のアモルファスSiOでは結晶Siの存在を示すデータは得られなかった.つまり,Si的領域は結晶化せずにアモルファス構造を保っていると考えられる.162日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)