ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

不均一アモルファス一酸化シリコン(SiO)構造の精密構造解析十分でないため,特注の3.5μm径の集束レンズ絞りを使って集束角を1.0 mrad程度まで抑え,明瞭な電子回折スポットが観察できる条件を実現した.ただし,ビーム径は約0.8 nmとなり空間分解能は少し犠牲にすることになるが,酸化物や半導体は金属と比較して密度が低いため大きな問題にはならない.4.不均一アモルファスSiOの構造解析一酸化シリコン(SiO)は星間物質として宇宙に多く存在する物質として知られているが,SiOの気体を冷却することでアモルファスのSiO固体が得られる.アモルファスSiOは光学用の反射防止膜やガスバリアフィルムなどに利用されてきており,近年では次世代の二次電池用負極材として期待されており, 13), 14)一部では既に実用化されている.アモルファスSiOはおよそ1世紀前に初めて合成され, 15)これまでその構造については多くの議論がなされてきた.主な論点は,不均化反応によりSiOがSiとSiO 2へ分解しているか否かである.アモルファスSiOの燃焼熱はSiとSiO 2の混合物のそれと比べて200~800 cal高いことから, 16)従来その構造は固有のものであると考えられてきた.しかし,近年の研究からはSiとSiO 2の混合物であるという説が有力である. 17)-20)さらに,混合物モデルを仮定したSi-SiO 2界面構造についても議論がなされており, 20)実験結果に基づいた構造モデリングが待たれていた.本研究では,同一のアモルファスSiO試料についてオングストロームビーム電子回折法および放射光X線散乱法により測定を行い,計算機シミュレーションを併用することで,両方の実験を満たす構造モデリングを試みた.4.1放射光X線散乱測定まず精密な構造因子S(Q)をアモルファスSiOから得るため,SPring-8において放射光X線散乱実験を行った.図2には得られたS(Q)を示す.アモルファスSiおよびSiO 2から得られたS(Q)21), 22)と,それらを平均した(Si+SiO 2)混合物のS(Q)も比較のために示している.アモルファスSiOとSi+SiO 2のS(Q)を比較すると,高散乱角側では非常によい一致を示すものの,低散乱角側の細かい部分で違いがあることがわかる.特にSi+SiO 2のS(Q)においては第1シャープ回折ピーク(FSDP:First SharpDiffraction Peak)の分裂が見られるが,SiOでは見られない.つまり,アモルファスSiOはSiとSiO 2の単なる混合物というよりはむしろ固有の構造をもつことが示唆される.4.2 TEM/STEM観察およびEELS測定次にアモルファスSiOの局所構造の特徴を調べるためにTEM/STEMを用いた観察を行った.観察に用いたTEM/STEMは日本電子製JEM-2100F(加速電圧200 kV)である.観察用試料は粉砕法で作製し,マイクログリッド上に分散した小片のエッジに近い薄い領域で観察を日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)行った.このようなエッジ領域の厚みは別途行った原子間力顕微鏡の測定からおよそ5 nm以下と見積もられる.図3には直径100 nm程度の領域から撮影した制限視野電子回折パターン,高分解能TEM像,および高分解能STEM像を示す.ここで示すSTEM像は,高散乱角環状暗視野(HAADF:High-Angle Annular Dark Field)-STEM像であり,そのコントラストは原子番号の1.4~2乗に比例することが知られている.まず,制限視野電子回折パターンはアモルファスに典型的なハローリングがいくつか見られ,その強度極大の位置はX線散乱のS(Q)におけるピーク位置と一致している.高分解能TEM像ではアモルファス特有の網目状のコントラストが観察され,一見すると均一構造のように見える.しかし,原子番号に敏感なHAADF-STEM像においてはナノスケールで明暗のコントラストが見られた.SiとOの原子番号を考慮すると,HAADF-STEM像における明るい領域はSiリッチ,暗い領域はOリッチの領域である可能性が高い.ただ,試料の厚さや密度に違いがある場合にも同様のコン図2S(Q)5432100510oQ / A -1放射光X線散乱法を用いてアモルファスSiOから得られた構造因子S(Q)(中段赤線).5)(Structurefactor S(Q)for amorphous SiO obtained usingsynchrotron X-ray scattering technique.)比較のため,アモルファスSiO 2(上段),アモルファスSi(下段)から得られたS(Q)とそれらを足し合わせたもの(中段青線)も示す.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.(a) (b) (c)図32nmアモルファスSiOから得られたTEM/STEM観察の結果.5)(TEM/STEMobservationforamorphousSiO.)(a)制限視野電子回折パターン(100 nm程度の広い領域から撮影),(b)高分解能TEM像,および(c)HAADF-STEM像.152nm20161