ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

平田秋彦,小原真司,今井英人,陳明偉光X線散乱法を組み合わせて行った不均一アモルファス一酸化シリコン(SiO)の構造モデリング例5)について主に紹介する.2.透過電子顕微鏡を用いたアモルファス局所構造解析ここでは,従来行われてきたTEMおよびSTEMによるアモルファス局所構造の解析例について簡単に紹介する.アモルファスの局所構造をTEMで直接観察しようという試みは1970年代から行われている.しかし,アモルファスは結晶のように明瞭な周期をもたずランダムな原子配列のため,TEMの結像系の不完全さに起因するランダムノイズに構造情報が埋もれてしまい,真の局所構造の観察が困難であることが議論されてきた.6)つまり,ノイズからいかに構造情報を抜き出すかがこの手法の問題点である.これに対し,弘津らは構造モデルを使った像シミュレーションにより埋もれた構造が明瞭に観察できる最適フォーカス値を系統的に推測し,それに基づいたTEM観察からアモルファス合金における~2 nm程度に広がった秩序構造の存在を示した.7),8)また,電界放出電子銃の発達に伴い電子線をナノスケールまで絞ることが可能となり,ナノビーム電子回折法によっても同様に秩序構造の特徴が調べられてきている.8)-10)これは逆空間の情報ではあるが,より直接的に局所構造を検出できるのが有利な点である.一方で,ホロコーン暗視野像中のスペックルを解析することによりアモルファス中の秩序構造の分布を統計的に調べる手法としてフラクチュエーション電子顕微鏡法(FEM:Fluctuation ElectronMicroscopy)が1990年代から開発されてきており,特に発達した秩序構造(微結晶)が混在したアモルファスの解析に有効である. 11)また近年,STEM観察で高散乱角側の強度を用いることによりアモルファス中の重元素を直接観察しようという試みも近年なされており,アモルファス中のドープ元素の分布を調べるのに有効な手段である. 12)3.オングストロームビーム電子回折法ここではわれわれがこれまで行ってきたSTEMを使っ3)-5たオングストロームビーム電子回折法)について説明する.本手法では通常より小さい集束レンズ絞りを使うことにより,上述した従来のナノビーム電子回折法よりもビームサイズをさらに小さくし,かつビームの平行度も保持しているのが特徴である.これによりサブナノメートルのアモルファス局所構造(発達した秩序ではなくアモルファスの基本構成要素となるような構造)からの明瞭な電子回折が取得可能である.また,STEMの走査機能を使うことによりビーム位置を制御でき,位置情報付きの電子回折データセットを得ることができる.図1に0.36 nm0.72 nm1.5 nm3 nm7 nmSAED図1オングストロームビーム電子回折法の概要. 3)(Schematicofangstrom-beamelectrondiffractionmethod.)(左)オングストロームビーム電子回折法の模式図.アモルファス試料にサブナノメートルスケールまで絞った電子線を照射して局所領域からの電子回折パターンを撮影する.(右上)ビーム強度プロファイルの計算結果.(右下)ビームサイズを変えてアモルファス金属から得た一連の電子回折パターン.は本手法の概略図とさまざまなサイズのビームを用いてアモルファス合金から得た種々の電子回折パターンを示す.比較的広い領域(100 nm程度)から得られたパターンはアモルファス特有のいわゆるハローパターンを呈しており,中心の透過波から外側へ向かって強度プロファイルをとればX線などで得られる散乱曲線と同等なものとなる.一方,ビームサイズを数nmまで絞った場合には強度は離散的なスポットの集合となり,オングストロームレベルになると結晶で見られるような明瞭なパターンが得られる.ただし,このスポットは微結晶に起因するものではなく,アモルファス特有の局所構造によるものであることが解析から明らかとなっている.この特徴はアモルファス酸化物やほかのアモルファス物質でも同様であり,本手法によりアモルファスの局所構造の情報を二次元回折パターンとして取得することが可能である.アモルファスの局所領域から明瞭な回折パターンを撮影するには適切な条件設定が必要である.最新の球面収差補正STEMを利用すれば電子線を0.1 nm程度まで絞ることは可能であるが,ビーム径をやみくもに小さくすると集束角が大きくなるため,電子回折スポットが広がってしまい解析が困難になる.また,本解析では原子そのものというよりはある程度の原子集団を対象にしているため,ビーム径を少し広げたほうがむしろ好都合である.アモルファス合金の場合,5μm径の集束レンズ絞りを用い集束角約3.3 mrad,ビーム径約0.36 nmの条件で撮影を行った.また,アモルファス酸化物や半導体の場合には同様の条件を用いると逆空間での分解能が160日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)