ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4
- ページ
- 29/72
このページは 日本結晶学会誌Vol59No4 の電子ブックに掲載されている29ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol59No4 の電子ブックに掲載されている29ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol59No4
日本結晶学会誌59,159-165(2017)総合報告不均一アモルファス一酸化シリコン(SiO)構造の精密構造解析東北大学材料科学高等研究所,産総研・東北大数理先端材料モデリングOIL平田秋彦物質・材料研究機構先端材料解析研究拠点,科学技術振興機構さきがけ小原真司㈱日産アークエネルギーデバイス解析部今井英人東北大学材料科学高等研究所陳明偉Akihiko HIRATA, Shinji KOHARA, Hideto IMAI and Mingwei CHEN: DetailedStructure Analyses of Inhomogeneous Amorphous Silicon MonoxideWe present an approach for constructing a realistic structure model of inhomogeneous amorphousmaterials by combining angstrom-beam electron diffraction, synchrotron X-ray scattering, andsimulation techniques. Local structure information obtainable by angstrom-beam electron diffractionis effective to choose a probable model from some possible models that satisfy a structure factor ofX-ray scattering. We applied this approach to amorphous SiO and successfully constructed a realisticmodel including nanoscale Si and SiO 2 -like regions together with abundant interfacial Si suboxides.1.はじめにアモルファス物質は構造に周期性がないことから,結晶物質と比べて構造解析・構造モデリングが本質的に困難である.アモルファス構造の場合,X線回折などの散乱曲線にはブロードな強度のみが観測され,明瞭な多くのブラッグピークが高散乱角側まで見られる結晶構造における状況とは異なっている.これまでそのブロードな強度からできる限り多くの情報を得るために多くの試みがなされてきた.1)一般的な手法としては,X線や中性子線を用いて散乱強度を測定して構造因子(S(Q))を導出し,さらにフーリエ変換によって動径分布関数を得ることで原子の配位環境が従来調べられてきている.これにより配位数や原子間距離の情報を得ることができ,アモルファス構造の特徴を把握するのに大変有用である.しかし,動径分布関数の情報は三次元構造を一次元に投影したものであり,さらに試料全体から得られる平均情報でもあるため,そこからアモルファスの三次元構造を再構築するのは本質的に難しい問題である.アモルファスの三次元構造を散乱実験のみから構築するための手法として逆モンテカルロ(RMC:ReverseMonte Carlo)計算が知られている.簡単に言えば,原子を立方体セルの中に配置し,X線散乱などで得たS(Q)にモデルからの計算値が近くなるように原子を順次動かしていく手法である.これは分子動力学法(MD:Molecular dynamics)のように原子間ポテンシャルを設定する必要がないため,さまざまな物質に対して構造モデ日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)リングが可能である.しかしながら,RMC計算の開発者のレビュー2)にあるように,このプロセスでは実験を満たす多くのモデルのうち一番ランダムな構造が生成されるという性質がある.このことから,RMC計算を使ったモデリングでは,原子間距離や配位数などの拘束条件を与えて計算するなどして,妥当な構造を得るノウハウが必要である.さらにアモルファスの多くは多成分系であるため,モデリングはさらに複雑になる.そこで,X線散乱,中性子散乱,X線異常散乱,中性子同位体置換,EXAFSなど複数のテクニックを組み合わせることにより,特定元素の周辺環境の情報を分離することが可能となり,複雑な多成分系解析の見通しが非常に良くなる.一方で,これらの情報は試料の広い領域から得られたものであり,空間的には平均された情報であるため,例えば,不均一なアモルファス構造である場合にはいくつかの異なる特徴をもつ構造領域からの情報が重なって得られることになる.このような場合に空間的に情報を分離するため,われわれはこれまで透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)および走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning TEM)を使った局所電子回折法に注目して研究を行ってきている.3)-5)通常はナノビーム電子回折法と呼ばれるが,ここではアモルファスの局所構造情報を得るためにオングストロームレベルまでビームを絞り込むことが本質的に大事な点であるため,われわれはこの手法を特にオングストロームビーム電子回折法と呼び区別している.本稿では,この手法と放射159