ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

ネスポロマッシモ・21[010]はt(??0)並進操作と20,y,0回転操作からできるものである.21[010]から期待できるserial消滅則は0k0:k=2nであるがそれはh=l=0を置いたintegral消滅則と一致するので独立な消滅則ではない.第100番の空間群タイプはP 4 b m gという非共役空間群タイプである.慣用単位胞は単純なのでintegral消滅則は存在しない.〈100〉方向の映進操作(b?,y,z; a x,?,z)からのzonal消滅則は0kl:k=2nとh0l:h=2nである.〈110〉に鏡映操作mと映進操作gが共存する.前者は消滅則を起こさないが後者からzonal消滅則が期待できる.g(?,?,0)x,x,zの幾何的要素x,x,z([110]に垂直)は原点を通るのでw=w intr(文献1)を参照).消滅則はhhl:h+h=2nとなる.しかし,hの偶奇性によらずh+h=2hは必ず偶数なのでg[110]からの消滅則は常に成り立っている.g[110]に関しても同様な結論を得ることができる.6.5消滅則を利用し空間群タイプを絞り込む回折強度の測定から得られた消滅則から可能な空間群タイプを簡単に絞り込むことができる.例を分析しながら進めよう.測定のデータから格子定数は直方(斜方)の結晶を選択し,以下の消滅則が得られた.1. hkl:k+l=2n2. 0kl:k+l=2n3. h0l:l=2n4. hk0:h=2n5. hk0:k=2n6. h00:h=2n7. 0k0:k=2n8. 00l:l=2n1番目はintegral消滅則なので単位胞は複合である.逆格子で(100)*面の対角ベクトルが2倍の周期なので実格子の(100)面の対角ベクトルの半周期である.したがって単位胞はAである.2番目,3番目,5番目,7番目と8番目の消滅則はintegral消滅則から派生するものなので新しい情報をもたらさない.4番目の消滅則はzonalであり,(001)*面上のa*周期は2倍になっているので(001)面上のa周期は半分になる.この消滅則はa[001]映進操作から得られる.6番目の消滅則は4番目にk=0を置いたものなので新しい情報をもたらさない.上記の結果は「消滅記号」を求めると便利である.直方(斜方)晶系には[100],[010],[001]という3つの対称方向が存在する.上記の消滅則から[100]と[010]の対称方向に関する情報はないので「-」と書く.[001]にa映進操作があるのでその記号を書く.結局,消滅記号はA--aとなる.*6それに矛盾のない空間群タイプは3つ存在する:Am2a,A2 1ma,Amma.Ammaは中心的群で,そのほかの2つはその非中心的部分群である.演習問題7以下の消滅則に矛盾のない空間群タイプを同定せよ.なお,格子定数の情報がないため,複数の晶系の可能性があることも考慮すること.1.hk0:h+k=2n;2.h00;h=2n;3.0k0:k=2n;4.00l:l=2n今後次回の入門講座は空間・部分群の関係を紹介する予定である.文献1)ネスポロマッシモ:日本結晶学会誌58, 251(2016).2)ネスポロマッシモ:日本結晶学会誌59, 51(2017).3)日本結晶学会誌入門講座:X線構造解析を始めよう38(2-6)(1996);単結晶X線回折実験のかんどころ42(5-6)(2000), 43(2-6)(2001).4)M. Nespolo and B. Souvignier: J. Appl. Crystallogr. 43, 1144(2010).5)C. S. Weiss: Ueber einer verbesserte Methode fur die Bezeichnungder verschiedenen Flachen eines Krystallisationssystemes; nebstBemerkungen uber den Zustand von Polarisirung der Seiten in denLinien der krystallinischen Structur, p.286, Abh. K. Akad. Wiss.Berlin(1817).6)W. Whewell: Phil. Trans. R. Soc. Lond., 115, 87(1825).7)W. H. Miller: A Treatise on Crystallography, Cambridge, J. & J. J.Deighton, London, J. W. Parker(1839).8)D. Scharzenbach: J. Appl. Crystallogr. 36, 1270(2003).9)仁田勇:X線結晶学〈上〉, p.766,丸善(1959).10)P. Terpstra and L. W. Codd: Crystallometry. Longmans, p.420,London(1961).11)L. Weber: Z. Kristallogr. 57, 200(1922).12)M. J. Buerger: X-Ray Crystallography. An Introduction to theInvestigation of Crystals By Their Diffraction of MonochrumaticX-Radiation, New York, John Wiley & Sons(1942).13)M. I. Aroyo, Ed.: International Tables for Crystallography VolumeA: Space-group Symmetry, Sixth edition, Wiley(2016).14)松本崧生:日本結晶学会誌27, 305(1985).プロフィールネスポロマッシモMassimo NESPOLOロレーヌ大学結晶学教室CRM2 UMR CNRS 7036, Institut Jean Barriol,FR 2843, Faculte des Sciences et Technologies,Universite de LorraineBP 70239, Boulevard des Aiguillettes, F54506Vandoeuvre-les-Nancy cedex France*6 International Tables for Crystallography Volume A第6版では消滅記号が生憎掲載されていないが消滅記号を求める情報はすべて掲載されている. 13)158日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)