ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

日本結晶学会誌59,150-158(2017)対称性と群論(3)ミラー指数,ラウエ指数と消滅則ロレーヌ大学結晶学教室ネスポロマッシモMassimo NESPOLO: Miller Indices, Laue Indicesand the Reflection Conditionsこれまでの記事1),2)でヘルマン・モーガン記号(国際記号)から対称性の導き方と空間群の分類を説明した.今回はミラー指数,ラウエ指数の定義および実験で得られる消滅則の厳密な関係を紹介する.日常的に使われる概念であるにもかかわらず意外と誤解が多いと感じている.消滅則を理解するために回折という現象と構造因子という概念が必要だが,この学会誌の読者の中では既知と考えここでは省略する.なお,復習の必要な読者は本誌特集号「X線構造解析を始めよう」,あるいは「単結晶回折X線実験かんどころ」を参考にしていただきたい.3)1.ワイスパラメーターからミラー指数への旅鏡映面の方向はその法線ベクトルで指定する.なぜならば,無限の面が1本のベクトルを共有するがそのベクトルに垂直な面は1枚しかない(図1).しかし,鏡映面でない普通の格子面の法線ベクトルは格子ベクトルと限らない.例えば,単斜格子の場合は1本の対称方向しか存在しない.その対称方向を基底軸の1つとして選ぶと3つの設定が得られる:a-unique,b-unique,c-unique.歴史的な理由でb-uniqueはより頻繁に選択される.b-uniqueを選択する場合,acベクトルを含む格子面の法線ベクトルは基底のb軸と一致し,[010]という指数をもつ.が,bcベクトルを含む格子面の法線ベクトルは普通格子点を通らないため整数指数をもたない.どの格子面でもその方向を指定するために逆格子のベクトルを利用することができる.しかし,格子の幾何的要素を指定するためにその双対格子(ここでは逆格子)の幾何的要素を利用するのは不自然に思われる.そして,双対格子の概念はブラベー時代に導入されたものであることを考えると,4)それ以前は結晶面を実空間の格子で表現できる手段が必要であったはずである.文化14年(1817年)にクリスチャン・サムエル・ワイスが導入した結晶面のパラメーター(今日ワイスパラメーターと呼ばれる)は,その歴史を示している.5)格子定数をa,b,cで表示すると,結晶面の軸との切片がそれぞれpa,qb,rcの場合にそのパラメーターはp,q,rである.ワイスパラメーターはごく簡単だが大きな欠点をもつ.結晶面がある軸に平行な場合はその軸との切片はないため,そのワイスパラメーターは無限大となり,軸変換などの計算の場合は∞という指数は扱いにくい.上記の問題は文政8年(1825年)にウィリアム・ヒューウェルによって解決された.6)そして,ヒューウェルの表記法は天保10年(1839年)にウィリアム・ハロウズ・ミラー7によって出版された著作)に採用されたことによって「ミラー指数」として一般に知られるようになった.*1図2はある結晶面とその基底との切片を示している.この面はa軸にはp番目の格子点,b軸にはq番目の格子点,c軸にはr番目の格子点を通るのでそのパラメトリック方程式は以下のとおりとなる(x,y,zはそれぞれa,b,c軸の座標である).x p + y q + z r =1(1)p,q,rは定数のため両側pqrを掛けることができる.( ) + ( pqr) y q + ( pqr) z r =pqr x pqrx + pry + pqz = pqrpqr次に,qrをh,prをk,pqをl,pqrをmと置き換える.図1同一ベクトルを共有する面は無限枚(白)であるがそれに垂直な面は1枚しかない(ハッチングで示した面).*1ミラー自身はヒューウェルの記号をほぼそのまま利用すると明記している(「The Crystallographic Notation adopted in thefollowing Treatise is taken, with a few unimportant alterations,from Professor Whewell's Memoir"On a general method ofcalculating the angles of Crystals,"」文献6)p.iii).150日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)