ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4
- ページ
- 18/72
このページは 日本結晶学会誌Vol59No4 の電子ブックに掲載されている18ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 日本結晶学会誌Vol59No4 の電子ブックに掲載されている18ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
日本結晶学会誌Vol59No4
溝端栄一けで結晶の重原子標識が可能であった.大型結晶との比較実験では,微結晶はHAD13aを混ぜても壊れなかったが,大型結晶ではとても壊れやすかった.浸透圧ショックによる結晶の歪みの影響が微結晶は小さいためと考えられる.また,大型結晶は多数の結晶が重層したものが出やすく,データ測定時の結晶の方位調整に手間がかかったが,微結晶では単結晶が出やすく,SFXで方位を気にせずにデータ収集を簡便にできた.波長1.77 AのXFELで収集した2.3万枚の指数のついた回折像から,bRの構造をヨウ素原子のSADにより分解能2.1 Aで位相決定することに成功した.ネイティブ結晶のデータと組み合わせてSIRASを行った場合は,ネイティブ3000・誘導体4000の合計7000枚の回折像だけで位相決定ができた.さらに,すべての回折像を用いてSIRASを行ったところ,分解能3.3 AというSFXでの最低分解能記録で構造解析することにも成功した.これは比較的品質の良くないデータでも構造決定を実現する可能性を開く結果である.なお,HAD13aは,脂質メソフェーズ法で結晶化したGタンパク質共役アデノシン受容体(A2a-BRIL)にも結合して異常散乱シグナルを与えることを確認しており,種々の膜タンパク質に応用可能と期待される.4.膜タンパク質の迅速構造決定の方向性上記の筆者の報告と同時期に,BatyukらはA2a-BRILのSFXによるS-SADに成功した.7)一方,最近Melnikovらは,脂質メソフェーズ法で得た膜タンパク質の結晶を0.5 M NaIを含む高凍結剤溶液に浸した後に凍らせた後,従来のシンクロトロン放射光でデータ収集を行い,I-SADおよびSIRASにより速やかに構造決定する手法を報告した.8)これは,膜タンパク質の表面の正電荷を帯びた領域に,負電荷をもつヨウ素イオンを結合させることを狙ったものである.彼らは,大型結晶での振動法と,微結晶を使ったシリアル法の両方の実験で有効性を示した.ちなみに筆者は,bRをHAD13aで標識したときと同じ4 mMの濃度でNaIをbRの微結晶と混合してSFX測定を試みたが,ヨウ素イオンの膜タンパク質分子表面の塩基性残基付近への結合は確認できたものの,占有率が非常に低く位相決定には至らなかった.界面活性剤の特性をもつHAD13aのほうがヨウ素イオン単独より膜タンパク質への結合力が高いようだ.将来,XFEL施設や放射光施設のさらなる高輝度化が実現した暁には,HAD13aまたはNaIと混合した微結晶からシリアル法により常温でデータ収集を行うことで,またはS-SADを組み合わせることで,膜タンパク質の構造決定が迅速に行われる時代が到来しよう.話は変わるが,この数年,クライオ電子顕微鏡を用いたタンパク質構造解析の進歩がめざましい.かつて,図1膜タンパク質をヨウ素界面活性剤HAD13aで標識してシリアルフェムト秒結晶解析で構造決定する技術.(A method of labeling membrane proteins withiododetergent HAD13a and determining the structureby serial femtosecond crystallography.)単粒子解析の解像度は,蛍光板による間接光検出器の使用で30 A程度であったが,直接電子検出器の開発と,ベイズ理論に基づく反復解法を組み入れたプログラムRELIONの登場で,この数年で一気に1.8 A分解能を達成し,革命的な進展を見せている.9)不安定なタンパク質会合体の観察や,タンパク質の動きの予測すらできるようになりつつある.一方,数100 nmの微細な三次元結晶を用いて電子線回折で構造を解くMicroEDの技術も注目すべきである.10)結晶化の一次スクリーニングで得られた沈殿が,高解像度の顕微鏡で観察すると微結晶が含まれる場合がある.そうした微小な限られた試料で構造解析ができるかもしれない.電子線の散乱能は高いので,X線では到達できない良好な反射を,ナノ結晶から比較的安価な電顕装置を利用して得ることができる.結晶の損傷もX線より大きくなるが,多くの結晶からのデータを合算すれば問題ない.単粒子解析やMicroEDは膜タンパク質の構造解明における主要な解析技術として,大きな飛躍を遂げると予想される.文献1)E. Mizohata, et al.: J. Cryst. Soc. Jap. 56, 241(2014).2)T.R. Barends, et al.: Nature 505, 244(2014).3)K. Yamashita, et al.: Sci. Rep. 5, 14017(2015).4)T. Nakane, et al.: Acta Crystal. D71, 2519(2015).5)Y. Fukuda, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 113, 2928(2016).6)T. Nakane, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 113, 13039(2016).7)A. Batyuk, et al.: Sci. Adv. 2, e1600292(2016).8)I. Melnikov, et al.: Sci. Adv. 3, e1602952(2017).9)A. Merk, et al.: Cell 165, 1698(2016).10)M. J. de la Cruz, et al.: Nat. Methods 14, 399(2017).148日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)