ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

日本結晶学会誌59,145-146(2017)最近の研究動向透過型電子顕微鏡法による無機化合物の局所構造評価名古屋工業大学大学院工学研究科/材料科学フロンティア研究院浅香透,漆原大典Toru ASAKA and Daisuke URUSHIHARA: Local Crystal Structure Analysis ofInorganic Compounds Using Transmission Electron Microscopy1.層状Bi系強誘電体の構造解析1.1電子顕微鏡法とX線回折の連携による構造解析結晶の精密構造解析については,単結晶X線回折データを用いたものに,一般には最も信頼が置かれている.ただし,これは構造の乱れや欠陥などが少ない“きれいな”単結晶の場合であり,実際には簡単に解析が行えず,確度の高い評価が困難な場合がある.例えば,数十から数百マイクロメートルの“単結晶”には双晶を含む場合がよくある.メロヘドラル双晶,非メロヘドラル双晶いずれの場合も解析が簡単ではなくなる.単結晶領域,つまり単分域からの結晶構造に関する情報を得るには,透過型電子顕微鏡での制限視野電子回折や収束電子回折が有効である.電子顕微鏡像を観察しながらナノからサブミクロンのオーダーの領域を選択し,単分域からの回折パターンを得ることができる.また,透過型電子顕微鏡での電子回折では動力学的回折効果(多重回折)のため,弱い強度の反射を見落とすことなく検出でき,効率良く計測することができる.以上のような電子回折の利点を活かして,われわれは層状Bi系強誘電体(Bi 4Ti 3O 12)の正確な空間群を調べ,その結果を単結晶X線構造解析へフィードバックすることで,精密構造解析を行った.さらには得られた構造モデルを球面収差補正器を備えた高分解能走査透過電子顕微鏡(STEM)による構造像と比較することで,構造モデルの妥当性を評価した.1)Bi 4Ti 3O 12は高温常誘電相が正方晶(I4/mmm)であり,室温の強誘電相は直方晶(B2cb)2)あるいは単斜晶(B1a1)3)とされている.強誘電相では4回回転対称性の破れによる擬メロヘドラル双晶と反転対称性の破れによるメロヘドラル双晶(別の見方では分極ドメイン)が本質的に存在する.そのため単結晶X線回折では双晶構造を考慮した解析をしなくてはならないが,(擬)メロヘドラル双晶の場合,真の消滅則でさえも単純に決定できない場合がある.われわれは制限視野電子回折法により単一ドメインからの電子回折パターンを収集し,消滅則を解析した.その結果,本系は従来報告されていた空間群とは異日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)図1 Bi 4Ti 3O 12におけるTiO 6八面体近傍のSTEM観察.(STEM Observation of TiO 6 octahedron in Bi 4Ti 3O 12.)(a)ADF-STEM像.(b)デコンボリューション像.(c)対応する構造モデル図. 1)なり単斜晶P1a1であることがわかった.この空間群を用いて,双晶を仮定して単結晶X線構造解析を行い,構造パラメータを精密化した.得られた構造モデルでは,TiO 6八面体が歪んだ形をもち,さらにそれぞれのTiO 6八面体が規則的な回転や傾きをもって頂点共有で連結した構造を示した.得られた構造モデルについては,軽元素のサイトについてもコントラストを得ることができる環状明視野(ABF:Annular bright-field)STEM像との比較を行った.その結果,ABF-STEM像で観測される原子位置は結晶構造モデルと良い一致を示し,構造モデルの妥当性を確認した.さらに,図1に示すように本系の電気分極にも関係したTiO 6八面体の歪みや陽イオン間の相対的位置関係を数十ピコメートルのオーダーで観察することに成功した.ここで,このような局所構造の特徴は,単結晶X線回折データを用いた精密構造解析の際に,最初に設定した空間群が間違っていれば,正しく導かれない.この点においてX線回折と電子回折の連携は強力な構造解析手段であると言えよう.2.透過型電子顕微鏡法による局所構造解析2.1電子回折法前述のような双晶構造に加えて,ナノ構造体や薄膜,145