ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4
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日本結晶学会誌Vol59No4
瀬戸雄介(a)(b)(c)(d)図1トンガ-ケルマディック沈み込み地域近傍の地球内部構造.(Schematic cross-section around Tonga?Kermadec subduction zone.)震源(白丸)から赤枠内を通って伝播した地震波(S波)には振動方向による速度の異方性が観測されている.下部の拡大図は,変形実験によって予想されたブリッジマナイトの格子選択配向の様子を表す.(Tsujino et al.,2016より簡略化して転載.)も存在度の高い)鉱物である.海洋プレートが沈み込む地域の下部マントル領域(図1)からは,地震波速度(S波)の異方性が観測されており,これはブリッジマナイトの格子選択配向が原因であると考えられてきた.もし沈み込んだプレートが周囲の下部マントルを引きずり,そのせん断応力によって選択配向が生じるのだとすれば,ブリッジマナイトのすべり系(slip system)が重要な要因となる.ところが,ブリッジマナイトのすべり系について,これまでいくつかの実験的な研究が行われているものの,研究者間の結果の相違が大きく,また実際の下部マントル条件でのその場観察が行われていないという問題があった.そこで,著者らのグループは,D-DIA装置と呼ばれる一軸圧縮試験機を用いて,ブリッジマナイト多結晶体を実際の下部マントル条件(25 GPa,1873 K)の下で変形させる実験を行った.3)試料は圧縮軸に対して45度の角度で配置され,上下方向からの圧縮によってせん断変形させた.変形回収試料のX線回折パターン(図2a)において,デバイリング上の強度変動が観測された.配向性解析を行ったところ,せん断面にほぼ垂直な方向に[100]軸[直方(斜方)晶系なので,(100)面の法線と同一方向]が集中し,せん断方向には[001]軸が集中することがわかった(図2b~d).この結果を基に,ブリッジマナイトを主体とする下部マントルの岩石が,せん断応力によってどのように格子選択配向するか予想したものを図1の下部に示した.予想される格子選択配向は,観測されている地震波速度の異方性(例えばトンガーケルマディック地域では,S波速度が振動方向に図2変形実験後回収したブリッジマナイト多結晶体のX線回折パターンと配向性解析の結果.(X-raydiffraction pattern and pole figures of bridgmanitepolycrystal recovered after the deformation experiment.)(a)観察されたX線回折パターンと(b-d)各結晶軸の極点図.カラースケールは,方位分布が完全に均質であった場合に対する存在密度を表す.(Tsujino et al., 2016より転載.)よって0.1~1%程度異なる4))を整合的に説明するものであり,マントルダイナミクスに重要な知見を与えることが期待される.そのほか,上部マントルの主要鉱物であるカンラン石や,下部マントル最下部に位置する地震波不連続層であるD”層の構成鉱物と考えられているポストペロブスカイト型MgSiO 3のアナログ物質の変形実験試料についても格子選択配向の解析を行い,地球内部のダイナミクスに関する興味深い知見を得ているが,詳細は原著論文を参照頂きたい.5),6)文献1)瀬戸雄介:高圧力の科学と技術22, 144(2012).2)O. Engler and V. Randle: Introduction to Texture Analysis:Macrotexture, Microtexture, and Orientation Mapping(2nd ed.),CRC Press, Florida US(2009).3)N. Tsujino, Y. Nishihara, D. Yamazaki, Y. Seto, Y. Higo and E.Takahashi: Nature 539, 81(2016).4)J. Wookey, J. M. Kendall and G. Barruol: Nature 415, 777(2002).5)T. Ohuchi, Y. Nishihara, Y. Seto, T. Kawazoe, M. Nishi, G.Maruyama, M. Hashimoto, Y. Higo, K. Funakoshi, A. Suzuki, T.Kikegawa and T. Irifune: Phys. Earth and Planet. Inter. 243, 1(2015).6)K. Niwa, N. Miyajima, Y. Seto, K. Ohgushi, H. Gotou and T. Yagi:Phys. Earth and Planet. Inter. 194-195, 10(2012).144日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)