ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No4

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概要

日本結晶学会誌Vol59No4

大場茂関係,ならびに格子の変形による転換の相互関係がグラフで示されている(図3).また,複合六方格子(あるいは菱面体格子)が相転移によって単斜C底心に連続的に変化するときなどの場合の軸変換とその格子定数の特殊条件を表としてまとめ,また実例に沿って適用の仕方を説明している.2.2空間群の決定表International Tables Vol. Aの6版(2015年)で,空間群決定に関する新しい章が追加された.しかし,それは単結晶に限った内容であり,双晶の場合についてそこでは22含められなかったため,Flackは論文)の付録の形で公表した.彼は欠面性および疑似欠面性双晶の場合も含めて,ブラベ格子および反射の出現条件から空間群を決定する表を作成した.双晶の各分域からの反射の寄与を(非標準設定下で)考慮しなければならず,この表は「手で(もっと正確には頭を使って)作成した」と冗談交じりで述べている.なお,欠面性双晶について,各空間群のときにどのような双晶則(twin law)の可能性があるかのリストも別の論文で付録データの形で提供している. 23)3.標準不確かさ構造解析の論文においてかつては標準偏差(estimatedstandard deviation; e. s. d.)といっていたが,それを標準不確かさ(standard uncertainty; s. u.)と表すに至ったいきさつについて,IUCrの「測定の不確かさの表記に関する作業部会」が報告している. 24)国際標準化機構ISOが1993年に定めた「正確度」や「不確かさ」などの表記の国際的な基準に沿うべく検討が行われた.そして,結晶学では回折強度データが正しく測定され,それが統計的に正しく扱われて解析がなされることを前提として,「統計的な不確かさは従来e. s. d.と表記したが,今後はs. u.に置き換える」ことを勧告している.ただし,ここで誤解してならないことは,「不確かさ」が統計的な成分だけではないことである.不確かさにはType AとBがあり,そのうちType Bは例えば回折装置の不具合や吸収補正の不備あるいは抑制をかけたときの距離の設定値などから生じる不確かさである.そのような不確かさの成分は便宜上,構造解析のs. u.の計算には含まれていない.なお,解析で得られた値はそれを使ってさらに計算することを考えて,正確に示す必要がある.その際に「丸め誤差をs. u.の25%以内に抑えるにはs. u.が2~9の1桁か,10~19の2桁でなければならない」とのこと.現在のActa Cryst.およびCIFに適用されている,「s. u.の範囲は通常2~19」というルールは上記のことを反映している.4.パスツールの研究の再評価Louis Pasteur(ルイ・パスツール)が1848年に自然分晶ならびに分子のキラリティを発見したことおよびその関連の研究についてFlackは論文を精査し,きちんと整備された現代の用語を基にレビューとしてまとめた.5)FlackはX線結晶学で絶対構造や絶対配置を決定することについて研究してきたこともあり,パスツールが行った結晶および化学に関する研究の足跡を追い,彼の考えたことを分析し考察することをライフワークの1つとした.パスツールは次のような2つの問いを解くために研究したという.Q1:溶液が光学活性である化合物は,すべてが結晶外形で左右像が判別できるような結晶となるか?Q2:左右像が判別できるような結晶は必ず光学活性か?なお,この研究の過程でパスツールはSr(HCOO)2やMgSO 4のようにアキラルな化合物がキラルな結晶構造になる場合もあることを見出した.また,ジアステレオ塩形成によるラセミ体の光学分割法も発見した.パスツールは1854年を境として,分子キラリティの研究から手を引いた.ただしその後,1874年のvan’tHoffによる炭素正四面体説を無視するなどして,評判は芳しくなかったとのことである.謝辞最後に,この記事の企画を提案していただいた編集委員の方々に感謝いたします.文献1)D. Watkin and D. Schwarzenbach: J. Appl. Cryst. 50, 666(2017).2)P. G. Jones: Acta Cryst. A40, 660(1984).3)G. Bernardinelli and H. D. Flack: Acta Cryst. A41, 500(1985).4)S. Ohba, Y. Saito, et al.: Acta Cryst. B38, 1305(1982).5)H. D. Flack: Acta Cryst. A65, 371(2009).6)H. D. Flack: Helv. Chim. Acta 86, 905(2003).7)H. D. Flack and G. Bernardinelli: Cryst. Eng. 6, 213(2003).8)D. Rogers: Acta Cryst. A37, 734(1981).9)H. D. Flack: Acta Cryst. A39, 876(1983).10)H. D. Flack and G. Bernardinelli: J. Appl. Cryst. 33, 1143(2000).11)H. D. Flack and U. Shmueli : Acta Cryst. A63, 257(2007).12)R. W. W. Hooft, L. H. Straver and A. L. Spek: J. Appl. Cryst. 41, 96(2008).13)H. D. Flack, M. Sadki, A. L. Thompson and D. J. Watkin: ActaCryst. A67, 21(2011).14)S. Parsons, H. D. Flack and T. Wagner : Acta Cryst. B69, 249(2013).15)H. D. Flack: Acta Cryst. C69, 803(2013).16)H. D. Flack: Chimia 68, 26(2014).17)R. I. Cooper, D. J. Watkin and H. D. Flack: Acta Cryst. C72, 261(2016).18)H. D. Flack, G. Bernardinelli, D. A. Clemente, A. Linden and A. L.Spek: Acta Cryst. B62, 695(2006).19)H. D. Flack and D. Schwarzenbach: Acta Cryst. A44, 499(1988).20)H. D. Flack: Acta Cryst. A71, 141(2015).21)H. Grimmer: Acta Cryst. A71, 143(2015).22)H. D. Flack: Acta Cryst. C71, 916(2015).23)H. D. Flack and M. Worle: J. Appl. Cryst. 46, 248(2013).24)D. Schwarzenbach, S. C. Abrahams, H. D. Flack, E. Prince and A. J.C. Wilson: Acta Cryst. A51, 565(1995).142日本結晶学会誌第59巻第4号(2017)