ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

日本結晶学会誌59,24-28(2017)特集SACLASACLAによる光触媒の超高速時間分解XAFS研究分子科学研究所上村洋平北海道大学触媒科学研究所工学研究科量子理工学専攻脇坂祐輝,城戸大貴,高草木達,朝倉清高KEK PF丹羽尉博Yohei UEMURA, Yuki WAKISAKA, Daiki KIDO, Satoru TAKAKUSAGI, YasuhiroNIWA and Kiyotaka ASAKURA: Ultra-Fast XAFS Studies on Photocatalyst UsingSACLAPump-Probe XAFS(X-ray absorption fine structure)using SACLA(XFEL)has been appliedto the investigations of the dynamic structure and electronic state change of WO 3 photocatalyst inthe photoabsorption process. We found that the ultrafast electron transfer followed by the structurechanges. We describe our trial to investigate the photoabsorption process and discuss the futuredirections.1.序光触媒による水分解反応は,図1に示すように,半導体のバンドギャップを利用して光を吸収し,電子-正孔対を生成し,その電子を使って,光エネルギーを表面に伝達し,表面において化学反応を起こさせ,化学エネルギーに変換して,エネルギーを蓄積するものである.光触媒が通常の触媒と異なる点は,物質のもつ自由エネルギーを増加させる反応を進行できる点にある.したがって,水を水素と酸素に分解することで,エネルギー蓄積ができることになる.水は1.23 Vの酸化還元電位で4電子の反応を起こし,分解する.いわゆる水の電気分解である.電気の代わりにこのエネルギーをもつ光を4光子入れれば,水の分解が起こる.有名な光触媒として,TiO 2がある.本多・藤嶋効果で知られるTiO 2は紫外光を利用して水を分解する.1)太陽光には大量の可視光が含まれているので,可視光図1光触媒のバンド構造.(Band structure of Photocatalyst.)による水の分解反応ができれば,太陽光の有効利用となり,新しいエネルギー源として期待されている.可視光応答を実現するため,TiO 2にNをドープしたり,典型元素を用いたり,さまざまな工夫がなされている.2),3)図1に示すように,励起された電子のエネルギーがプロトンの酸化還元電位よりも高エネルギーであればプロトンに電子が渡されて水素を生じる.しかし,伝導帯の底がプロトンの酸化還元電位より下だと,電子をプロトンに渡すことができないので,プロトンの還元反応は起こらない.同様に価電子帯に生じたホールは水から酸素への酸化還元電位よりもエネルギーが小さければ水から電子を奪い,酸素を作り出すことができる.可視光を利用できることが理想であるが,そのためには,3つの条件が必要である.1バンドギャップが可視光のエネルギーより小さいこと,2伝導帯の底がプロトン/水素の酸化還元電位より高いこと,3価電子帯のトップが水/酸素の酸化還元電位より低いことである.しかし,この3つを同時に満たすことはなかなか難しい.これに加えて,光触媒が水の中で光を吸収した際に,自らを分解することが起きないことが要求される.自然界においては,葉緑素の光合成が光触媒の一種と考えられる.葉緑素中の光合成では,可視光を利用して,水を分解し酸素を発生させているが,このときに,2つの異なるサイトで光を吸収するいわゆるZスキームで光による水分解が進む.すなわち,1段目で,水から酸素を生み出し,2段目ではプロトンの代わりに高エネルギー物質であるNADPに電子を渡す.この自然界の原理を模倣した,Zスキーム型可視光応答水分解触媒が開発されている.こうすることで,バンドギャップおよび伝24日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)