ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

ページ
24/60

このページは 日本結晶学会誌Vol59No1 の電子ブックに掲載されている24ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No1

日本結晶学会誌59,18-23(2017)特集SACLASACLAを用いたコヒーレントイメージング北海道大学・電子科学研究所西野吉則,木村隆志,鈴木明大(公財)高輝度光科学研究センター城地保昌台湾中央研究院・生物化學研究所別所義隆Yoshinori NISHINO, Takashi KIMURA, Akihiro SUZUKI, Yasumasa JOTI andYoshitaka BESSHO: Coherent Imaging Using SACLAX-ray free-electron lasers(XFELs)with femtosecond pulse duration offer an innovative solutionto transcend the spatial resolution limitation in conventional X-ray imaging for biological samples andsoft matters by clearing up the radiation damage problem using the"diffraction-before-destruction"strategy. Building on this strategy, the authors are developing a method to image solution sample undercontrolled environment, pulsed coherent X-ray solution scattering(PCXSS), using XFELs and phaseretrieval algorithms in coherent diffractive imaging(CDI). This article describes the basics of PCXSSand examples of PCXSS measurement, for a living cell and self-assemblies of gold nanoparticles,performed by the authors using SACLA. An attempt toward the industrial application of PCXSS isalso described.1.はじめに放射光を用いた生物試料やソフトマターのX線顕微イメージングでは,試料の放射線損傷が空間分解能を制限する要因として大きな問題となってきた.半経験的な研究によると,生物試料に対しては10 nmがX線顕微イメージングの空間分解能の限界と言われてきた.1)これに対して,X線自由電子レーザー(XFEL)のフェムト秒オーダーのパルス幅を用いると,試料損傷が顕著になる前に回折が起こる.この「破壊前の回折」のコンセプトにより,XFELは放射線損傷の限界を超えた,高い空間分解能に道を拓いた.2),3)高空間分解能でのXFEL測定では,集光したシングルパルスのXFEL照射後に試料は破壊されるため,シングルショット測定が基本である.XFELは,ほぼ完全な空間コヒーレンスを有しており,対物レンズを必要としないコヒーレントイメージング測定に適している.コヒーレントイメージングには,参照物体を用いるホログラフィーと,参照物体を用いないコヒーレント回折イメージング(CDI)などがある.4),5)ホログラフィーでは,既知構造の参照物体からの散乱波と,未知構造の試料からの散乱波の干渉パターンがホログラムとして記録され,位相回復の必要なく試料像の再構成ができる.ホログラフィーにはさまざまなバリエーションがあり,XFEL測定にも用いられているが,通常は参照物体の加工精度により空間分解能が制限される.一方,CDIは,参照物体を必要としないため,位相回復計算が必要とされるものの,ホログラフィーよりも高い空間分解能でのイメージングが可能となる.実際に,XFELを用いたCDIでは,統計的に有意な信号が測定された回折パターンの最大散乱角のみによって制限された空間分解能が達成可能である.コヒーレントイメージングの大きな特長の1つに,位相を定量的にイメージングできる点が挙げられる.通常の対物レンズを用いた顕微鏡では,吸収コントラストがイメージングされるため,透明な物体を見ることはできない.X線は透過性に優れるため,分厚い試料の内部構造の観察に適しているが,一方において,微小な生物試料やソフトマターはX線にとって透明なため,位相を定量的にイメージングできるコヒーレントイメージングはきわめて有用である.筆者らは,「破壊前の回折」のコンセプトをさらに推し進め,環境を制御した溶液中で生物試料などを,XFELを用いたCDIによりイメージングするパルス状コヒーレントX線溶液散乱(PCXSS)法を独自開発し,XFEL施設SACLAにおいて測定を行っている.6),7)ちなみに,PCXSSは「パックス」と発音する.本稿では,PCXSSの概要と測定例を記す.測定例には,生物試料のほか,溶液中で構造を保ち機能する物質材料や,産業応用に向けた研究も含まれる.2.コヒーレント回折イメージング(CDI)X線結晶構造解析では,結晶試料のX線回折データを位相回復することにより,試料構造を決定する.X線結晶構造解析はX線回折を用いるが,X線の高い空間コ18日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)