ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No1

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概要

日本結晶学会誌Vol59No1

XFELの概要とSACLAの特徴XFELのパルス性を活かすには,シングルショットで計測することが必須となり,多チャンネルの信号を同時に測る二次元検出器の役割がきわめて重要となる.SACLAでは,CCD技術に基づいた高速の二次元検出器(Multiport CCD:MPCCD検出器)25)を開発し,多くの利用実験に安定的に適用している.さらに,検出器,データ取得システム,試料チャンバーなどの各コンポーネントを一体化したシステムを構築し,高度な利用を実現している.ビームラインや利用システムの詳しい情報は,本号の登野健介氏の記事を参照されたい.5.今後の展望3章で述べたように,2017年以降,XFEL施設は日米の二極から,欧州・アジア勢も加えた多極へと拡大していく.このような状況の中で,SACLAは,国際的なプレゼンスを維持しながら,サイエンス・イノベーションのさらなる活性化に貢献することが求められる.前章で紹介したような特徴を一層先鋭化させると同時に,XFELをもっと使いたいという利用者からの旺盛な要求に応えるため,SACLAでは,利用機会の拡大を図ってきた.2014年には,2本目の硬X線FELビームラインとしてBL2を建設した.2017年からは,SACLA加速器からの電子ビームをパルスごとに振り分けることにより, 26)既存のBL3との並行利用を開始する予定である.また,軟X線FEL専用加速器として,SCSS試験加速器をSACLAアンジュレータホールに移設し,2016年より利用を開始した.また,SACLAは産業イノベーションへの貢献も期待されている.これまでみてきたように,XFELを利用するには新たな手法や装置を用いる必要があり,供用当初は,非専門家や企業が主体となった利用は容易ではなかった.この状況を改善するために,2014年度より,SACLAでは「SACLA産学連携プログラム」(2016年より「SACLA27産業利用プログラム」に改称))を実施してきた.これは,企業,XFEL利用に習熟した利用者(主に大学・研究機関),SACLA施設の3者が協力して,産業利用振興に必要な調査研究を行うものである.これまでの取り組みによって,産業界の利用が着実に拡大し,2016年度には成果専有利用も開始された.特に,XFELのコヒーレントな超短パルスを使うことで干渉計測などのX線精密計測が容易となり,さまざまな応用につながると期待される.最後に,世界の潮流に目をむけたい.LCLSでは,既存の施設に加えて,4 GeVの超伝導線形加速器を配備し高繰り返し(~1 MHz)の軟X線FELを実現する「LCLS-II」の建設を開始した.2020年を目処に利用が開始される予定である.さらに,超伝導加速器を8 GeVまで増強し硬X線領域まで拡大する「LCLS-II-HE」計画も検討されている.これらは,きわめて高い平均輝度が期待されるが,光学系や試料への熱負荷を考えると,シングルパルス当たりの光量を落とさざるを得ない.また,巨額の建設・運用コストも要する.一方で,SPring-8,ESRF,APSなどの第3世代放射光源は,「回折限界放射光源(Diffraction Limited Synchrotron Radiation:DLSR)」へのアップグレードを計画しており,サイエンスケースでも重複する部分が増えてくる.両者の特徴を理解しながら,適切に使い分けていくことが重要となろう.さらに将来の大きな目標として,蓄積リングベースのCW-XFEL光源の実現に向けた議論が世界各所で始まっている.テクノロジーの進化の大きな流れをしっかりととらえながら,サイエンスを創っていくことが求められる.文献1)T. Ishikawa, et al.: Nat. Photonics 6, 540(2012).2)M. Yabashi, H. Tanaka and T. Ishikawa: J. Synchrotron Rad. 22, 477(2015).3)R. Neutze, R. Wouts, D. van der Spoel, E. Weckert and J. Hajdu:Nature 406, 752(2000).4)K. J. Gaffney and H. N. Chapman: Science 316, 1444(2007).5)M. Suga, et al.: Nature 517, 99(2015).6)T. Kimura, et al.: Nat. Commun. 5, doi:10.1038/ncomms4052(2014).7)E. Nango, et al.: Science 354, 6319(2016).8)Y. Uemura, et al.: Angew. Chem., Int. Ed. 55, 1364(2016).9)H. Yoneda, et al.: Nat. Commun. 5, 5080(2014).10)H. Yoneda, et al.: Nature 524, 446(2015).11)L. R. Elias, et al.: Phys. Rev. Lett. 36, 717(1976).12)A. M. Kondratenko and E. L. Saldin: Part. Accel. 10, 207(1980).13)R. Bonifacio, C. Pellegrini and L. M. Narducci: Opt. Commun. 50,373(1984).14)P. Emma, et al.: Nat. Photonics 4, 641(2010).15)J. Andruszkow, et al.: Phys. Rev. Lett. 85, 3825(2000).16)T. Shintake, et al.: Nat. Photonics 2, 555(2008).17)M. Yabashi, et al.: J. Phys. B 46, 164001(2013).18)T. Hara, et al.: Nat. Commun. 4, 2919(2013).19)I. Inoue, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 113, 1492(2016).20)H. Mimura, et al.: Nat. Commun. 5, 3539(2014).21)M. Yabashi, et al.: Phys. Rev. Lett. 97, 084802(2006).22)Y. Inubushi, et al.: Phys. Rev. Lett. 109, 144801(2012).23)T. Katayama: Appl. Phys. Lett. 103, 131105(2013).24)T. Osaka, et al.: Opt. Express, 24, 9187(2016).25)T. Kameshima, et al.: Rev. Sci. Instrum. 85, 033110(2014).26)T. Hara, et al.: Rev. Sci. Instrum. 85, 033110(2014).27)http://xfel.riken.jp/topics/20160328.htmlプロフィール矢橋牧名Makina YABASHI理化学研究所放射光科学総合研究センターRIKEN SPring-8 Center〒679-5148兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-11-1-1 Kouto, Sayo, Hyogo 676-5148, Japane-mail: yabashi@spring8.or.jp最終学歴:博士(工学)専門分野:X線光学現在の研究テーマ:X線光学趣味:ピアノの練習日本結晶学会誌第59巻第1号(2017)5