ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

クリスタリット情報を引き出すことが可能である.トポロジー解析において,結合経路は原子間における電子密度の極大点の連なりとして定義される.(量子科学技術研究開発機構平野優)勾配ベクトルマップGradient Vector MapB1-B2構造相転移B1-B2 Structural Transition圧力誘起によって起こる岩塩型(B1構造)から塩化セシウム型(B2構造)への構造相転移のこと.高圧下では高密度・高配位数な構造を好むため,六配位の岩塩型構造に比べ八配位の塩化セシウム型構造が好まれる.NaClやMgOなど多くの単純な二元系化合物が岩塩型構造をとることから,地球科学の分野では二元系のB1-B2構造相転移が古くから研究されており,酸化物や,塩化物,カルコゲン化合物など数多くの物質で一般的に起こることが知られている.SrFeO 2,Sr 3Fe 2O 5,Sr 2PdO 3,Ca 2CuO 3などの岩塩型ブロックを含むインターグロース構造(AO)(AMO 2)nにおいても普遍的に起こることも知られている.(京都大学大学院工学研究科山本隆文)インターグロース構造Intergrowth structure複数の異なる構造が入れ子になって形成された(層状)構造のこと.例えばRuddlesden-Popper(RP)型ペロブスカイト構造はペロブスカイト構造と岩塩型構造が積み重なったインターグロース構造を形成している.RP型ペロブスカイト構造は一般式を(ABO 3)n(AO)と書くことができ,この一般式からペロブスカイトABO 3層と岩塩型AO層が積み重なった層状構造だと理解できる.さまざまなインターグロース構造が知られており,例えば鉄系超伝導体の母体であるLaFeAsOもLaO層とFeAs層のインターグロース構造といえる.(京都大学大学院工学研究科山本隆文)トポロジー解析(電荷密度の)Topological Analysis(of Charge Density)電荷密度解析により得られる精密な電子密度の形状をAtoms-in-molecules(AIM)理論に基づいて解析する手法で,分子中の各原子の性質や原子化学結合に関する日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)電子密度の勾配ベクトル(∇ρ)をつないだ線を表示したもので,電子密度の勾配が最大となる経路を辿っている.電子密度の勾配ベクトルの線量が0となる面は分子中での原子どうしの境界を規定する.(量子科学技術研究開発機構平野優)ラプラシアンマップLaplacian Map電子密度のラプラシアン(∇2ρ)を平面描写では等高線で表示したもので,電子の局在に関する情報を電子密度そのものよりも鋭敏に検出することが可能である.これにより,電子殻や非共有電子対についての知見を得ることができる.(量子科学技術研究開発機構平野優)結合臨界点Bond Critical Point:BCP結合経路に沿った電子密度の極小点は,結合経路に垂直な平面においては電子密度の極大点であるために三次元的な鞍点となっており,結合臨界点と呼ばれる.(量子科学技術研究開発機構平野優)変態誘起塑性Transformation-Induced Plasticity(TRIP)徐冷しても室温でオーステナイト組織となるような鋼(例えばSUS304)に冷間加工を施すとマルテンサイト変態を起こす場合がある.これは,マルテンサイト変態が一種のせん断変形によって起こるためである.このような準安定オーステナイト組織を種々の温度で引張試験すると,Ms点(マルテンサイト変態が開始する温度)とMd点(加工によってマルテンサイト変態が生じる上限温度)の間のある温度で非常に大きな伸びを示す.この現象を変態誘起塑性(TRIP)という.TRIP現象はオーステナイト系ステンレス鋼などの加工性向上(強度と伸びの向上)に利用されている.1)1)“ステンレス鋼便覧第3版”,ステンレス協会編,p.169(1994).(大阪府立大学大学院理学系研究科久保田佳基)285