ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

AsCA 2016参加報告写真1市内の様子.写真2図書館10階の屋上から.らないこともあり,会議期間中は非常に過ごしやすかったです.ノイバイ国際空港からタクシーで,農村地を横切る高速道路を30分ほど走り,大きなニャッタン橋を渡ってハノイ市内へと入りました.あたりを見回すと,3階建てくらいの石造りのビルが肩を寄せ合うようにして,立ち並んでいます.市内は車の渋滞が激しく,また,バイクが多いことに驚きました.車の隙間を埋めるようにバイクが入りこみ,さながら最密充填構造を形成しておりました(写真1).また,市内の道路には横断歩道や,横断信号などがほとんどなく,決死の覚悟でバイクと車が行きかう中に飛び込んで車道を横断しなければなりませんでした.AsCAは,ハノイ工科大学(Hanoi University of Scienceand Technology)図書館の最上階10階と9階を使って,口頭発表とポスター発表が行われました.すべての会場が同じ建物内にあるため,会場間の移動はスムーズに行えました(写真2).口頭発表を聞いて初日は午後から特別講演とWelcome mixerが行われ,アジア各国からの多くの参加者が集まり顔を合わせました.2日目からはマイクロシンポジウムが始まりました.化学系で印象深かった講演とその内容を抜粋し,以下に取り上げていきます.日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)MS-2 Engineering of Crystalline and Non-crystallineSolidsこのMSは,結晶相でない相も扱うため研究対象に幅があり,聞いていて面白いセッションでした.まず,興味深かったのは京都大学の窪田先生のMMF(MetalMacrocycle Framework)についてのご講演でした.4つの独立な錯体部分が,大きな包接空間を形成し,そのゲスト分子の交換挙動を段階的に時分割単結晶X線解析で明らかにされていました.ホスト分子の形に合うようにゲストが徐々に入れ替わっていくさまは,コマ送りの漫画のように流れがわかるものでした.次のDr. David Turner(School of chemistry, MonashUniversity, Australia)の発表も興味深く,アミン部分を中心として伸びたアルキル鎖の先にカルボキシル基が付いた柔軟な配位子に注目し,中心のアミンの形を段階的に変えていく中で,どのような配位高分子を形成するかを研究していました.MS-5 Structure and Properties of Functional MaterialsこのMSでは,結晶の相転移による物性変化について発表がなされていました.結晶の相転移には多くのパターンがあり,また変化する物性も多岐にわたるということがよくわかりました.温度変化によるOrder-Disorderの相転移による磁性の変化,ある結晶構造から異なる結晶構造への相転移による蛍光物性の変化などが報告されていました.また,シッフ配位子の置換基をさまざまに変えて類似の錯体を作り,その結晶構造と錯体物性の関係性を調査した基礎的な研究などもあり,面白かったです.MS-8 Metal-Organic Frameworks and OrganicInorganic Hybrid Materials今回のAsCAでは口頭発表とポスター発表ともにMOF(Metal-Organic Framework)の研究がクローズアップされており,今のアジア結晶学のトレンドの1つではないかという印象を受けました.それぞれの研究者が,目的に応じてMOFの骨格を設計しており,多様な多孔質構造が発表されました.その中で目を引いたのが,中国のProf. Guo-Xin Jin(Department of Chemistry, FudanUniversity, China)のMOFで,片方だけ多座配位子が配位したHalf sandwich型金属錯体を構成要素としており,フレームワークの構築方向に制限を与えるアイデアがよいと思いました.KN2キーノートレクチャー(A Renaissance of Solid-StateChemistry Across Chemical Synthesis)では,カナダMcGill大学のProf. Tomislav Friscicによるメカノケミストリーについての講演でした.これは固体磨砕による無溶媒(あるいは溶媒をほとんど使わない)合成法であり,従来の合成,結晶化では得られなかった化合物もしくは結晶相281