ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

竹田一旗,三木邦夫,平野優している.高電位鉄イオウタンパク質(HiPIP)は,光合成細菌の光合成電子伝達系において,シトクロムbc 1複合体から反応中心複合体への電子伝達を行い,反応中心のスペシャルペア(バクテリオクロロフィル二量体)を再還元する役割を担う可溶性タンパク質である.アミノ酸80残基程度の小さなタンパク質で,酸化還元中心として1分子当たり1個のFe 4S 4クラスターを有し,その酸化還元電位は+350 mV程度である.3)このタンパク質の結晶構造はいくつかの光合成細菌由来のものについて決定されており,現在,PDBにはおよそ20個のHiPIPの構造が登録されている.このHiPIPの結晶構造解析は高分解能のものが多く,1 A分解能を超えるものもいくつか見受けられる.われわれは,好熱性の紅色光合成細菌Thermochromatiumtepidumを対象に,光合成電子伝達系に含まれるタンパク質群の構造研究を行ってきた.4),5)この細菌由来のHiPIPについては継続的に構造解析を行い,1.5 A,0.8 A,0.7 A分解能と徐々に分解能を高めて,4),6),7)ごく最近には0.48 A分解能での結晶構造を報告した.8)これは現在,PDBに登録されている中で,最も高い分解能のタンパク質構造の1つである.また,高精度の分子構造情報を提供するだけではなく,金属タンパク質中での多核金属錯体の電荷密度分布を初めて実験的に決定できたという点で画期的である.2.構造解析2.1結晶化およびデータ収集HiPIPの結晶は,1,4-dithiothreitol(DTT)存在下で硫酸アンモニウムを沈殿剤として作製した.7)この結晶は非常に高い回折能を有していた.しかしながら,通常のタンパク質結晶の回折実験に使用される波長のX線では,0.7 A分解能を超える回折反射は回折角が大きくなりすぎて観測することができなかった.そこで,SPring-8のBL41XUビームラインにおいて,波長0.45 A(27.6 keV)の高エネルギーX線を用いて回折実験を行った.測定にはCCD検出器Rayonix MX225を使用した.1個の結晶(0.8×0.2×0.1 mm 3)から測定条件を変えて,高分解能,中分解能,低分解能の3データセットを取得した(表1).高分解能データの測定においては,ヘリカ9ルデータ収集法)により結晶を並進させながらX線を照射した.また,照射位置当たりのX線吸収線量を~6×10 5 Gy以下に抑えX線による影響を抑制した.これは,通常の構造解析で適用される吸収線量限界(2?3×10 7 Gy)10),11)の1/50程度でしかないが,このような測定条件でも0.48 A分解能以上の回折反射を確認することができた(図2a).回折点強度の積分およびスケーリングはHKL2000プログラム12)を用いて行い,高,中,低分解能のデータをマージした.その結果,0.48 A分解能の1つのデータセットとすることができた(表1).最外殻分解能(0.50?0.48 A)のR sym値は33.9%,I/σ(I)は2.7であった(図2b).2.2精密化の流れ超高分解能データの精密化の流れを図3aに示す.まず,SHELXLプログラム13)を使用した孤立球状原子モデル(Independent spherical atomic model:ISAM)解析を行った.この段階で,各原子の周りに球状原子モデルでは説明できない残余電子密度を確認することができた.この構造を基に多極子原子モデル(Multipolaratomic表1データ収集条件.(Conditions for data collection.)Sub-data setLow angleMiddle angleHighangleWavelength(A)0.450.450.45Beam size(μm 2)50×5050×5050×50Photon flux(photon/sec)3.6×10 91.9×10 103.8×10 10Cooling gasN 2N 2N 2Temperature(K)100100100Camera length(mm)25015070Oscillation angle(°/frame)1.01.01.0Total frames180180180Exposure time(sec)0.50.512Dose per frame(Gy)1.1×10 25.8×10 22.6×10 4Accumulated dose(Gy)2.0×10 41.0×10 56.2×10 5図20.48 A分解能の回折データ.(Diffraction data at 0.48 A resolution.)(a)回折イメージ(部分).(b)R sym(黒),<I>/<σ(I)>(灰色)の分解能依存性.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.268日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)