ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

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概要

日本結晶学会誌Vol58No4

小島達弘報告する論文において多くの場合査読者が誤りに気づくことなく審査を通過してしまい,表記が誤った構造が報告されていることが少なくない.本解説ではこれらの誤りを防ぐために,トポロジー表記の要点をまとめた.本解説の執筆にあたりV. A. Blatov,M. O’Keeffe,D. M.Proserpioによる解説をおおいに参考にした.9)トポロジー表記の英語による解説の理解は少なからず困難であると思われるが,無駄なく必要事項が記載されているので,本解説に合わせて原著論文も参照することも推奨する.なお,本解説では実際の結晶構造をトポロジー表記することを目的としているので,数学的に定義を満たしていても現実の結晶構造では起こりえないようなケースは省いた.また今回は,近年MOFおよびPCPやゼオライトの空孔の形状を描写するために用いられるNaturaltiling 10)-12)およびそれに付随するDelaney表記による構造の描写および表記に関しては紙面の都合上解説を見送る.2.なぜトポロジーか?緒言にてCu[C(C I 6H 4CN)4]BF 4の構造をダイヤモンド型構造と表現したが,それは分子構造を点と線に見立てた際の点と点のつながりがダイヤモンドの構造に類似しているだけであって,実際の線の長さや角度が必ずしも一致するわけでも一様でもない.このように図形の点と点の距離や角度が変わらず歪んだり縮んだりすることのない厳密なユークリッド幾何学に従うと,構造を分類することは不可能である.しかし,線の長さや角度の歪みは区別せずに点と点のつながり方が一致していれば同一の図形と見なす考え方の位相幾何学(トポロジー)ならば,さまざまな構造の分類が可能となる.そのためネットワーク構造をトポロジー表記で分類するようになった.3.トポロジー分析3.1構造の簡略化トポロジー表記によって表現されるのは分子構造を交点(node)と辺(edge)という2つの構成要素によって簡略化した三次元ネットワークである.ネットワークトポロジーを正しく表記するための第一歩は構造を正しく簡略化することである.正しく簡略化するために重要なのは分子構造をそのまま模るのではなく,簡略化されたネットワークの構成要素が交点と辺のみであることを理解しなければならない(図2).*トポロジーにおける交点の定義は「辺と辺が互いに交わる点」であるため,た*この簡略化はM. O’KeeffeおよびO. M. YaghiらがMOFの二次構造単位を一目で見てその結合様式(次数および立体的方向)がわかるように多角形あるいは多面体で置き換えて簡略化した図とは異なることに注意すべきである.13)図2構造の簡略化Simplification.(of structure for topologicalanalysis.)図3 2通りの簡略化.(Two patterns of simplification.)だの「曲がり角」ではなく必ず「分かれ道」でなければならない.すなわち1つの交点は必ず3個以上の隣り合う交点をつないでいなければならない.それゆえ,どれだけ複雑な曲がり角であっても一本の辺として簡略化されるのである.また,辺は必ず交点と交点を結ぶ線でなければならない.すなわち,例え道が分かれていたとしてもその先が次の交点につながっていない「行き止まり」であった場合はその分かれ道は交点とは見なされない.この原則に従うと,例えば二次元方向への広がりがなく一次元方向にのみつながっただけの構造は例えジグザグ状であったとしても,分かれ道がないためただの直線と見なされる.このような場合はトポロジーに基づいた表記法は適用されないため,別の方法で表現される必要がある.簡略化の方法は1通りではないことも留意すべきである.例えばH. Chunの報告した[Zn 4(mip)4(dabco)(OH 2)2](mip=5-methylisophthalate,dabco=diazabicyclo[2.2.2]octane)14)はPaddle wheel部を交点と見なすことによって5配位型のネットワークに分類されるが(図3左),より大きなクラスター全体を交点と見なすことによって12配位型のネットワークに分類される(図3右).どちらも正しく簡略化されており,どちらのネットワークと見なすかはその構造から議論される趣旨に応じて著者あるいは読者によって判断されるべきである.3.2トポロジー表記構造の簡略化が正しく行われた後に,交点と辺のつながりに基づいたルールによってトポロジー分析がなされる.現在,主に以下の4種類の表記法の使用が推奨されている.160日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)