ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

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概要

日本結晶学会誌Vol58No4

月原冨武残って行う,徹底した実験室の安全確認のことでしょう.何かにつけて自ら実践して指導した先生は多くの学生に慕われ,卒業後も頼りにされました.1983年には,角戸正夫先生の後を継いで大阪大学蛋白質研究所物理部門に移られました.1994年に退官されるまで,田中信夫先生,松浦良樹先生,畑安雄先生,佐藤衛先生らスタッフおよび大学院生とともにタンパク質の構造研究で多くの業績を残されました.それらは,キシラナーゼ,セルラーゼ,Cu,Zn-スーパーオキシドディスミュターゼ,リシルエンドペプチダーゼ,植物の自家不和合性に関与するS糖タンパク質,マッシュルーム由来レクチン,グルタチオン合成酵素,オリゴ-1,6-グルコシダーゼ,G4-アミラーゼ,フィブロブラストグロースファクターなど多岐にわたり,生化学研究者から強く求められていた構造を次々に決定して,関連分野の研究の発展に大きく貢献されました.こうした研究を行う際にも独自に装置開発を行って,手法の発展にも尽くされました.その中には後に,商品化にまで至ったタンパク質用イメージングプレート自動回折計やパソコンを利用した低分子自動結晶構造解析システムがあります.実際に現場に居合わせた訳ではありませんが,こうした装置開発に嬉々として取り組んで居られる姿が目に浮かびます.自ら研究に取り組む傍,所内では1988年に国際的なタンパク質工学研究の勃興に対応するために,ペプチドセンターと結晶解析研究センターを統合して,ペプチド研究系,結晶解析研究系,ならびに遺伝子操作研究系からなる蛋白質工学基礎研究センターを立ち上げられ,同センター長として研究の推進を計られました.また,1989年から1993年までは蛋白質研究所・所長として研究所の運営と発展に奮闘されました.1994年に退官された後はタンパク質構造の啓蒙や大学のみならず企業も含めた領域でのタンパク質研究の推進に奔走されました.2000年には高輝度光科学研究センター参与として,製薬協加盟18社を含む企業26社からなるSPring-8構造生物産業応用研究会の立ち上げに協力し,その代表として活躍されました.その研究会活動が契機となって,SPring-8での専用ビームライン建設を目的とした製薬協の蛋白質構造解析コンソーシアムが2001年に設立され,その顧問として専用ビームラインの建設など蛋白コンソーシアムの将来計画・構想の確立に貢献されました.1996年から㈱リガクのX線研究所特別顧問として,社内においてタンパク質,低分子化合物のX線結晶構造解析装置開発,解析など全般について指導するとともに,製薬メーカーに対してタンパク質X線構造解析の指導を精力的に行われました.2003年からは,ファルマ・アクセス株式会社・代表取締役社長として,タンパク質構造のハイスループットX線解析を推進されました.多彩な活動で忘れてはならないものに,設立発起人代表として創設にご尽力された「プロテイン・モール関西」があります.関西では,大学や公的研究機関,製薬企業をはじめとする企業群など,タンパク質に関連する数々の研究機関が活発に研究活動を展開しております.これらの機関が一堂に会し,大阪府も参加して連携しながらタンパク質に関する研究開発および産業化を推進する組織として2009年に立ち上げられ,2015年まで勝部先生は会長として先頭に立って組織をリードしてこられました.関西のタンパク質に関する個々のポテンシャルを集約し,産業活性化活動に取り組もうという勝部先生のご意志は今後も引き継がれ発展させていくものと期待されています.生涯,何事にも先頭に立って活躍された勝部幸輝先生のご冥福をお祈りします.2016年7月30日(兵庫県立大学大学院生命理学研究科・特任教授大阪大学・名誉教授月原冨武)194日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)