ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No4

ページ
37/62

このページは 日本結晶学会誌Vol58No4 の電子ブックに掲載されている37ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol58No4

Mn(II)イオンの結合によって誘起される結晶相ADPリボース加水分解酵素反応の観察図6ESM状態の同定.(Identification of ESM state.)MnCl 2ソーキング時間6分におけるM1錯体形成とADPRの構造変化.配位結合距離はA単位.図4活性部位内の化学種の占有率(表)とE,ES,ESM,ESMM,E’状態の存在比のMnCl 2ソーキング時間に依存した変化(表およびグラフ).(Estimatedoccupancies of chemical species in the active site, andabundance ratio of E, ES, ESM, ESMM, E’-states.)E+E’は水色,ESは赤色,ESMは黄色,ESMMは緑色で示す.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図5MnCl2ソーキング時間6分におけるGlu82の2つのコンホメーション.(Two different conformations ofGlu82 observed at the soaking time of 6 min.)かった(図4).Nudixモチーフで最も重要な役割をもつのはGlu86とGlu82で,これらを変異させると活性は劇的に減少する.Glu86はα-リン酸と末端リボース基の側にあるβ-リン酸の間に,Glu82はα-リン酸の近傍に位置していた(図2).とくにGlu82はアポ状態の結晶(E状態)では親水性領域にむき出しになって水分子と水素結合ネットワークを形成していたが,ADPRをソーキングした結晶では疎水性のポケットに押し込まれるように配向に変化を受けた第二の側鎖構造が観察された(図5).この新たに見つかったGlu82の側鎖構造の占有率は0.7~0.8となり,ADPRの占有率と対応していた.したがってGlu82はE状態では親水性領域にむき出しであるが,ES状態ではα-リン酸との負電荷反発によって側鎖が疎水性領域に押し込日本結晶学会誌第58巻第4号(2016)まれると結論づけることができた.3.3 Mn 2+イオンソーキング6分までに観察された構造変化とESM状態の同定MnCl 2をソーキングして3分以降のデータで,早速Nudixモチーフと基質ADPRの間にMn 2+イオンが明確に確認された(図2).ソーキング時間6分になると,このMn 2+イオンの占有率はさらに高くなりその後一定に達した.この1つめのMn 2+イオン(M1)はADPRのα-リン酸とβ-リン酸の間に入り込み,保存されたGlu86とAla66,2つの水分子(W1,W2)を配位子としてきれいな八面体の錯体構造を形成した.この錯形成に伴ってADPRのα-リン酸の配向が歪み,構造に変化が見られた(図6).この新しい構造をADPR*とし,配位前の構造と区別した.このようにES状態にMn 2+イオンが1つ導入され,ADPR*構造が完成した段階をESM状態と名づけた.ソーキング時間6分ではすべてのADPRがADPR*構造に変化しているため,この段階で結晶中にはADPRと結合していない20%のE状態と,ES状態に替わって立ち現れた80%のESM状態が混在した状態となった(図4).3.4 Mn 2+イオンソーキング20分までに観察された構造変化とESMM状態の同定ソーキング時間10,15,20分のデータでは,ADPR*のα-リン酸の近傍に2つめのMn 2+イオン(M2)のピークが確認された(図2).興味深いことにM2の占有率の上昇に伴って,ES状態で疎水性領域に押し込まれていたGlu82の配向が変化し,ふたたび親水性領域における占有率が高くなっていた(図4中の表).親水性領域におけるGlu82の側鎖はM2に対して配位結合距離にあるため,この占有率の上昇はM2とGlu82の静電的な相互作用によるものと考えられた(図7).以上のことから,ESM状態にさらにもう1つMn 2+イオンが挿入され,Glu82が配位結合を形成した段階をESMM状態とした.ソーキ189